研究実績の概要 |
小児脳難病の病態解明と治療法の確立を目標とし、モデル生物解析およびバイオインフォマティクス解析を施行し、脳の形態形成や機能発達に必須な因子としてSRSF7 (iScience, 2020)、Gm14230 (Journal of Cell Science, 2019)、TBC1D24 (Plos One, 2021)、BEX1 (BMC Biology, 2022)を特定し、それぞれ論文発表を行った。 この内、BEX1は天然変性タンパク質 (intrinsically disordered protein, IDP) としての性質をもち、相分離を介して微小管 (microtubule) の重合を促進する微小な反応場を形成することがわかった。BEX1は微小管の合成に必須であり、BEX1遺伝子の変異マウスでは微小管合成が損なわれ、微小管に依存して形成される一次繊毛 (primary cilia) が消失する。その結果、BEX1変異マウスはヒトの繊毛病であるジュベール症候群に類似した表現型を呈し、特に小脳低形成・多発性嚢胞腎・網膜異形成を示す。神経組織においてはBEX1は網膜上皮の極性形成に必須であり、また小脳顆粒細胞の増殖を促進する。 てんかん性脳症の原因遺伝子として知られるTBC1D24が、細胞内でサイトオーフィディア (cytoophidia) と呼ばれるマクロ構造体を形成することを発見した。サイトオーフィディア形成はTBC1D24のGTPアーゼ活性を抑制し、ゲノム毒性などのストレス状態に対して保護的にはたらくことを明らかにした。このようなTBC1D24の保護機能が損なわれることが、てんかん性脳症の病態形成に関与している可能性がある。 以上のように一連の新規因子に着眼することで小児の神経システムの構築に関わる新たな分子ネットワークを特定した。
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