研究課題/領域番号 |
18K07802
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
日暮 憲道 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (40568820)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 難治てんかん / 疾患モデルラット / 小動物MRI / 移植・再生医療 / 脳波 |
研究実績の概要 |
本研究は、乳児期に発症する難治てんかん症候群の一つであるドラベ症候群について、てんかん発作発生に関与する脳領域を解剖学的に解明し、正常神経細胞を移植し治す新規治療法(細胞移植治療法)の実現化を目指すものである。今回、ドラベ症候群のモデルラットと小動物用MRI装置を用いて、マンガン造影MRI(MEMRI)という撮像法により、疾患ラット脳における過剰興奮を示す領域の可視化を試みた。その結果、幼若期の疾患ラットでは健常ラットと比較し、一部の脳領域において興奮性が増強することを見出した。さらに、熱刺激により確実にてんかん発作を起こすという疾患ラットの性質を利用し、熱刺激後の疾患ラットおよび健常ラットのMEMRI画像を比較したところ、疾患ラットでは熱刺激により、前述の脳領域の興奮性が変化する傾向にあった。すなわち、これらの脳領域がてんかん発作発生に関与している可能性が高い。今後、脳波や脳組織を用いた詳細な解析を進め、てんかん発作発生領域を同定することができれば、これを標的とした細胞移植治療の効果を検証する。細胞移植治療によりてんかん発作の発生を抑制し、有意な症状の改善が得られた場合、本症のみならず、打つ手のなかったその他の遺伝子異常による素因性難治てんかんに対し、根本治療の可能性を切り開く点で、その医学的、社会的意義は極めて大きいと考える。さらに、MRIを用いて、てんかん脳における異常な神経回路の成熟過程を可視化することができれば、これまでにない側面からの病態解明へ大きく前進することができるだけでなく、多様なてんかん診療の新たな研究基盤となることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
MEMRIにおける熱負荷条件の検討に必要な脳波解析が進んでいないため、やや遅れているとした。疾患ラットでは、熱で確実に発作が誘発される特徴をもつが、実際に発作を起こしてしまうと、脳浮腫などの影響から脳の興奮性がMEMRIに反映されないことが報告されている。したがって、熱負荷による脳の興奮性をMEMRIで捉えるためには、「電気的なてんかん発射を増加させるが、発作は生じない」程度の負荷にする必要がある。熱負荷は現在、新生児用保育器を用いて行なっているが、理想的には脳波モニタリングを行なった上で適切な器内温度、湿度、負荷時間を決定する必要がある。すなわち、平常時、熱負荷中での脳波記録を比較し、てんかん性異常波(棘波、速波、棘徐波)の出現頻度、振幅、連続性などを評価し、負荷の程度を決定することが望ましい。しかし、脳波測定時の筋電図によるアーチファクトの調整が困難であり、熱負荷による微細な脳波変化を捉えることができていないため、脳波測定条件や解析プログラムを改良する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
1. 脳波解析:脳波電極装着時の固定法の改善、脳波測定時の電極保定の工夫、アーチファクト除去プログラムの作成により、脳波条件を改良する。その結果、てんかん性異常波が出現する熱負荷条件を選定することができれば、決定した熱負荷条件下でのMEMRI画像解析へと進む。 2. 発作発生に関与する脳領域の同定:ラットの脳組織切片を用いて、平常時および熱負荷時のMEMRIで興奮性の高い脳領域について、組織学的に細胞構成などの変化を解析する。さらに、RNAやタンパク発現解析と合わせて、てんかん発作発生に関与する脳領域を同定する。 3. 細胞移植実験:健常ラットの内側基底核原基より採取した細胞から誘導した抑制性神経前駆細胞を用いて、2で同定したてんかん発作発生に関与する脳領域を標的とし、疾患ラット脳内に細胞移植実験を行う。移植による治療効果の評価は、MEMRIや脳波所見の変化、熱負荷による発作誘発閾値、発作症状の強度、持続時間などを比較して行う。また、移植細胞の免疫組織学的評価、電気生理学的評価を行い、背景の裏付けを行う。効果を明らかにできれば移植リソースとしてヒトiPS細胞由来神経細胞を用いた実験へとシフトしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度に動物飼育を盛んに行なっていたため、それを見越して前倒し請求をしたが、出生動物数が想定より少なかったため、飼育費用が残った。
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