研究課題/領域番号 |
18K07810
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
照井 君典 弘前大学, 医学研究科, 准教授 (00333740)
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研究分担者 |
土岐 力 弘前大学, 医学研究科, 講師 (50195731)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ダウン症候群 / 一過性異常骨髄増殖症 / GATA1 / 遺伝子変異 |
研究実績の概要 |
ダウン症候群の新生児の約10%は一過性異常骨髄増殖症(TAM)という一過性の白血病を発症する。その多くは3か月以内に自然寛解するが、約20%の症例は肝線維症や呼吸循環不全のため早期に死亡する。TAMのほぼ全例で血球特異的転写因子GATA1の遺伝子変異がみられ、この変異は、完全長のGATA1タンパクが発現せず短縮型のGATA1タンパク(GATA1s)のみが発現するという異常を引き起こす。我々は最近GATA1変異の特定のタイプがTAM患者の好酸球数増多症や肝障害と関連することを見出した。これらの変異タイプはGATA1sタンパクの高発現を引き起こすことから、GATA1sタンパクの発現レベルの違いがTAMの臨床像に影響を与えている可能性が考えられる。 ヒト白血病細胞株K562とCRISPR/Cas9ゲノム編集技術を用いて、GATA1sタンパクの発現が高いSE(splicing error)タイプのGATA1変異を持つクローンと、発現が低いPTC(premature termination codon)タイプのGATA1変異を持つクローンを作成した。造血幹細胞・造血前駆細胞の維持や増殖に重要な転写因子であるGATA2とKITの発現レベルはSEタイプのクローンよりもPTCタイプのクローンで高く、後者の方がより未分化であることが示唆された。TAM患者の検体を用いてRNA-seqを行い、遺伝子発現プロファイルを解析したところ、巨核球関連遺伝子の発現が高い患者集団が認められた。この群に分類された4例はいずれも肝障害を呈しており、PDGFやTGF-βなどのサイトカインと肝障害との関連が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度、ヒト白血病細胞株K562にCRISPR/Cas9ゲノム編集技術を用いて様々なGATA1変異を導入し、GATA1sタンパクの発現が高いSEタイプのGATA1変異を持つクローンと、発現が低いPTCタイプのGATA1変異を持つクローンが得られた。これらの細胞を用いて、各種転写因子の発現レベルを解析したところ、両クローンとも野生型に比べてGATA2とKITの発現が亢進しており、その発現レベルはPTCタイプの方が高かった。GATA2とKIT は造血幹細胞・造血前駆細胞の維持や増殖に重要な転写因子であることから、PTCタイプを持つクローンの方がより未分化であることが示唆された。また、これらの細胞をTPAで巨核球系に分化させ巨核球関連遺伝子の発現レベルを解析したところ、両クローンともGP2B遺伝子の発現誘導がほとんどみられず、巨核球分化の障害が示唆された。しかし、GATA1変異タイプによる違いは明らかではなかった。 TAM患者26人の検体を用いてRNA-seqを行い、遺伝子発現プロファイルを解析したところ、巨核球関連遺伝子の発現が高い患者集団が認められた。この群に分類された4例はいずれも直接ビリルビンやALTが高値であり、肝障害を呈していた。巨核球関連遺伝子には、TAMの肝線維症の原因と考えられるPDGFやTGF-βをコードする遺伝子も含まれており、これらのサイトカインと肝障害との関連が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
ヒト白血病細胞株K562とCRISPR/Cas9ゲノム編集技術を用いて、GATA1sタンパクの発現が高いSEタイプのクローンと、発現が低いPTCタイプのクローンを作成した。転写因子の発現パターンから、PTCタイプのクローンの方がより未分化であることが示唆された。これらの細胞を巨核球系に分化させ巨核球関連遺伝子の発現レベルを解析したところ、巨核球分化の障害が示唆されたが、GATA1変異タイプによる違いは明らかではなかった。しかし、GP1BAやMECOMなどの遺伝子の発現パターンに若干の違いが認められたことから、解析する遺伝子を増やしてさらに解析を進める予定である。 TAM患者の検体を用いてRNA-seqを行い、遺伝子発現プロファイルを解析したところ、巨核球関連遺伝子の発現が高い患者集団が認められた。この群に分類された4例はいずれも肝障害を呈しており、PDGFやTGF-βなどのサイトカインと肝障害との関連が示唆された。今後、これらの患者のGATA1変異タイプやGATA1sタンパクの発現レベルなどについて解析を予定している。また、好酸球関連遺伝子を高発現する患者集団の有無などについても解析を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
参加予定だった学会が中止になった。次年度の成果発表のための旅費として使用する。
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