ダウン症候群の新生児の約10%は一過性異常骨髄増殖症(TAM)という一過性の白血病を発症する。その多くは3か月以内に自然寛解するが、約20%の症例は肝線維症や呼吸循環不全のため早期に死亡する。TAMのほぼ全例で血球特異的転写因子GATA1の遺伝子変異がみられ、この変異は、完全長のGATA1タンパクが発現せず短縮型のGATA1タンパク(GATA1s)のみが発現するという異常を引き起こす。我々は最近GATA1変異の特定のタイプがTAM患者の好酸球数増多症や肝障害と関連することを見出した。これらの変異タイプはGATA1sタンパクの高発現を引き起こすことから、GATA1sタンパクの発現レベルの違いがTAMの臨床像に影響を与えている可能性が考えられる。 ヒト白血病細胞株K562とCRISPR/Cas9ゲノム編集技術を用いて、GATA1sタンパクの発現が高いSEタイプのGATA1変異を持つクローンと、発現が低いPTCタイプのGATA1変異を持つクローンを作成した。造血幹細胞・造血前駆細胞の維持や増殖に重要な転写因子であるGATA2とKITの発現レベルはPTCタイプで高く、より未分化であることが示唆された。逆に、巨核球特異的転写因子であるNFE2の発現レベルはSEタイプで高い傾向にあり、より巨核球系に分化している可能性が示唆された。これらの細胞をTPAで巨核球系に分化させ、肝線維症の原因となるPDGFやTGF-βなどの巨核球関連サイトカイン遺伝子の発現レベルを解析したが、明らかな違いは認められなかった。 TAM患者の検体を用いてRNA-seqを行い、遺伝子発現プロファイルを解析したところ、巨核球関連遺伝子の発現が高い患者集団が認められた。この群に分類された4例はいずれも肝障害を呈しており、巨核球関連サイトカインと肝障害との関連が示唆された。
|