研究課題
知的障害(ID)は一般人口の1~3%を占める比較的頻度の高い病態である。IDを始めとした自閉スペクトラム症(ASD)、てんかんなどの神経発達症(ここではDSM-5の定義による神経発達症ではなく、発達期に発症する神経疾患の総称と定義)の合併はよく認められ、最近の研究では遺伝要因(原因遺伝子)もオーバーラップすることが報告されている。我々は2014年4月にID患者診療に特化した通称「ID外来」を開設し、ID患者の臨床症状の蓄積、マイクロアレイ染色体解析と次世代シークエンス解析を組み合わせた系統的な遺伝学的解析を実施してきた。本研究は先行研究を基盤とし、対象疾患をIDを中心とした神経発達症に広げ、その臨床症状および遺伝学的背景を明らかにし、病態解明および治療開発に結び付けることを目的とする。2020年度に新たに20名の研究参加同意が得られ、内訳は男性9名、女性11名であった。全例が境界域~重度のIDを伴い、主な症状はID/発達遅滞11名、ASD6名、てんかん3名であった。今年度も1)次世代シークエンス解析(パネル解析)および染色体G分染法(未施行例)、2)マイクロアレイ染色体解析、3)一部の未診断患者に対し臨床エクソーム解析(TruSight Oneシーケンスパネル)または研究協力者によるトリオ全エクソーム解析の順で解析を進めた。2014年4月から2021年3月の間の研究参加者計237名中(未解析例あり)、106名(44.7%)において病的意義のある、または病的意義のある可能性が高い染色体異常もしくは遺伝子変異が同定され、遺伝学的確定診断に至った。臨床医および基礎研究者を交えた症例検討会は1回開催することができた。またこれらの研究成果を国内5学会で発表した。
3: やや遅れている
2020年度の推進方策は以下であった。1)「ID 外来」の発展、2)遺伝学的検査継続、3)遺伝型・表現型相関の検討および臨床症状のデータベース化、4)症例検討会開催、5)研究成果の発表、6)共同研究の推進を行なっていく。2)に関しては概ね順調に進んでいる。2)については過年度に登録された患者を含め解析を進め、知的障害関連80遺伝子パネル解析3件、知的障害関連76遺伝子パネル解析1件、乳幼児期発症てんかん関連遺伝子パネル解析1件、全エクソーム解析5件、染色体G分染法で2件、病的意義のある、または病的意義のある可能性が高い変化が同定され遺伝学的確定診断に至った。2014年4月より累積すると237名中(未解析例含む)106名が陽性であり(44.7%)、陽性率は過去の報告と比較して妥当であると考えられた。マイクロアレイ染色体解析で新たな微細欠失・重複は同定されなかったが、染色体G分染法で同定された染色体異常の範囲の確認に役立った。1)3)4)5)6)についてはやや遅れている。1)に関しては、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、当初の予定より受診患者が減ったことにより登録患者の減少(目標は100人/3年程度)につながった。3)遺伝型および表現型の検討は順調に進んでいるが、HPO(Human Phenotype Ontology)化、データベース化には着手できておらず遅れがみられる。4)は新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期が続いたため1回のみの開催であったが、症例検討、情報交換、情報共有することが出来た。5)に関しては予定していた国内学会で発表を行うことが出来たが、海外学会には参加できなかった。6)は米国Greenwood Genetic Centerとの共同研究で論文化された症例(KMT5B遺伝子変異)の詳細な症例報告をまとめているが論文化できていない。
今年度に引き続き1)「ID 外来」の発展、2)遺伝学的検査継続、3)遺伝型・表現型相関の検討および臨床症状のデータベース化、4)症例検討会開催、5)研究成果の発表、6)共同研究を推進し、最終年度のまとめを行っていく。2)次年度も臨床症状検討の上、症状に合うパネルを選択し、遺伝子パネル解析からマイクロアレイ染色体解析の順に行う計画である。原因不明症例については、研究協力者との全エクソーム解析による既知および新規原因遺伝子単離も積極的にすすめていく。今年度、遺伝子パネルの更新を予定していたが行わなかったため、パネルの見直しをする予定である。3)に関してまず本研究開始2018年からの症例についてHPO化していき、可能であれば過去の症例に着手する。データベースはローカルなものを想定している。5)6)に関し共同研究をすすめていく上で積極的に学会発表および論文執筆を行なう。次年度も国内は小児神経学会学術集会、日本人類遺伝学会学術集会、日本小児遺伝学会学術集会を中心とした学会での発表を予定している。国際学会は米国人類遺伝学会参加と発表を予定している。今年度中に、米国Greenwood Genetic Centerとの共同研究でDNAメチル化パターンの異常が同定された症例(KMT5B遺伝子変異)の詳細な症例報告の論文化を目指す。
【次年度使用額が生じた理由】次世代シークエンサー解析は過年度の未解析者と本年度の患者について解析を行ったが、予定より登録患者が少なかったことと、8人揃った段階で解析を行うため、当初計画していたよりもゆっくりなペースでの解析となった。そのため、本年度の患者検体の一部は次年度に解析することになり、当初予定したよりも支出の減額となった。人件費および謝金は今年度も発生しなかった。また学会開催がオンラインとなったため旅費が抑えられた。【使用計画】2020年度の繰越額を、実験の消耗品費、論文校正費として使用するとともに2021年度参加予定の学会発表のための国内外旅費として使用する。
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Clinical Neurophysiology
巻: 131 ページ: 2100~2104
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