研究課題/領域番号 |
18K07815
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
高野 亨子 信州大学, 学術研究院医学系(医学部附属病院), 講師 (70392420)
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研究分担者 |
涌井 敬子 信州大学, 学術研究院医学系, 講師 (50324249)
古庄 知己 信州大学, 学術研究院医学系, 教授 (90276311)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 知的障害 / 自閉スペクトラム症 / てんかん / 次世代シークエンス解析 / マイクロアレイ染色体解析 |
研究実績の概要 |
知的障害(ID)は一般人口の1~3%を占める比較的頻度の高い病態である。IDを始めとした自閉スペクトラム症(ASD)、てんかんなどの神経発達症(ここではDSM-5の定義による神経発達症ではなく、発達期に発症する神経疾患の総称と定義)同士の合併はよく認められ、最近の研究では遺伝要因(原因遺伝子)もオーバーラップすることが報告されている。我々は2014年4月にID患者診療に特化した通称「ID外来」を開設し、ID患者の臨床症状の蓄積、マイクロアレイ染色体解析と次世代シークエンス解析を組み合わせた系統的な遺伝学的解析を実施してきた。本研究は先行研究を基盤とし、対象疾患をIDを中心とした神経発達症に広げ、その臨床症状および遺伝学的背景を明らかにし、病態解明および治療開発に結び付けることを目的とする。 2021年度は新たな20名の患者より研究参加同意が得られた。内訳は男性13名、女性7名で、全例が境界域~重度のIDを呈し、主な症状はID/発達遅滞11名、てんかん5名、ASD4名であった。 今年度も1)次世代シークエンス解析(パネル解析)および未施行患者に対し染色体G分染法、2)マイクロアレイ染色体解析、3)一部の未診断患者に対し臨床エクソーム解析(TruSight Oneシーケンスパネル)または研究協力者によるトリオ全エクソーム解析の順で解析を進めた。 2014年4月から2022年3月の間の研究参加者計257名中(未解析例あり)、114名(44.4%)において染色体異常または病的意義のある・病的意義のある可能性が高いゲノムコピー数バリアントや遺伝子バリアントが同定され、遺伝学的確定診断に至った。またこれらの研究成果を国内2学会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度の推進方策は以下であった。1)「ID 外来」の発展、2)遺伝学的検査継続、3)遺伝型・表現型相関の検討および臨床症状のデータベース化、4)症例検討会開催、5)研究成果の発表、6)共同研究の推進を行なっていく。 2)に関しては概ね順調に進んでいる。新たな20名に関し解析を進め、知的障害関連80遺伝子パネル解析4件、臨床エクソーム解析1件、マイクロアレイ染色体解析で1件病的意義のある・病的意義のある可能性が高い変化が同定され遺伝学的確定診断に至った。 2014年4月より累積すると257名中(未解析例含む)114名が陽性であり(44.4%)、昨年とほぼ同じ陽性率(2021年まで44.7%)であり、本解析方法・検査の順番で一定の陽性率が得られることが推測された。 1)3)4)5)6)についてはやや遅れている。1)に関しては、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、当初の予定より受診患者が減ったことにより登録患者の減少(目標は100人/3年程度)につながった。3)遺伝型および表現型の検討は順調に進んでいるが、HPO(Human Phenotype Ontology)化、データベース化には着手できておらず遅れがみられる。4)は新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期が続き開催出来なかった。5)に関しては予定していた国内学会で発表を行うことが出来たが、海外学会には参加できなかった。6)は米国Greenwood Genetic Centerとの共同研究で論文化された症例(KMT5B遺伝子変異)の詳細な症例報告をまとめているが論文化できていない。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に引き続き1)「ID 外来」の発展、2)遺伝学的検査継続、3)遺伝型・表現型相関の検討および臨床症状のデータベース化、4)症例検討会開催、5)研究成果の発表、6)共同研究を推進し、最終年度のまとめを行っていく。 2)次年度も臨床症状検討の上、症状に合うパネルを選択し、遺伝子パネル解析からマイクロアレイ染色体解析の順に行う計画である。原因不明症例については、研究協力者との全エクソーム解析による既知および新規原因遺伝子単離も積極的にすすめていく。今年度、文献検索など行い、遺伝子パネル搭載遺伝子の見直しを行い、新しい知的障害関連遺伝子パネルとてんかん関連遺伝子パネルを作成した。来年度はそれらの新しいパネルを使用する予定である。 3)に関してまず本研究開始2018年からの症例についてHPO化していき、可能であれば過去の症例に着手する。データベースはローカルなものを想定している。4)症例検討会の再開を計画する。5)6)に関し共同研究をすすめていく上で積極的に学会発表および論文執筆を行なう。次年度も国内は小児神経学会学術集会、日本人類遺伝学会学術集会、日本小児遺伝学会学術集会を中心とした学会での発表を予定している。国際学会は米国人類遺伝学会参加と発表を予定している。今年度中に、米国Greenwood Genetic Centerとの共同研究でDNAメチル化パターンの異常が同定された症例(KMT5B遺伝子変異)の詳細な症例報告の論文化を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
次世代シークエンサー解析は過年度の未解析者と本年度の患者について解析を行ったが、予定より登録患者が少なかったことと、8人揃った段階で解析を行うため、当初計画していたよりもゆっくりなペースとなった。そのため、本年度の患者検体の一部は次年度に解析することになり、当初予定したよりも支出の減額となった。人件費および謝金は今年度も発生しなかった。また学会開催がオンラインとなったため旅費が抑えられた。 2021年度の繰越額を、実験の消耗品費、論文校正費として使用するとともに2022年度参加予定の学会発表のための国内外旅費として使用する。
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