子宮内で手足を活発に動かす胎児の動きを母親は胎動として感じる。胎児期の運動機能発達において抑制性神経伝達物質GABAによる伝達は重要である。一方GABAは発達期に細胞外へCl-を排出するK-Cl共輸送体(KCC2)の発現が減少するために、細胞内Cl-濃度が高くなり、興奮性に働く。GABA合成酵素であるグルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)やKCC2欠損マウスが運動失調により生直後に死亡することから、胎児期の運動機能発達には、「GABAの放出」と「抑制性応答」の両方が、重要であると考えられた。もう1つの抑制性伝達物質であるグリシン作動性神経を形成するグリシントランスポーター(GlyT)2欠損マウスが運動失調で生後2週で死亡することから、グリシンも運動機能発達に大きな役割を果たしていると考えられる。 これらの背景から、研究代表者らは下記のことをまとめ、原著論文として発表した(Shimizu-Okabe et al. 2022)。①GABAを産生する神経細胞がマウス胎齢10日目に、運動情報を出力する脊髄前角に検出される。②前角ではGABA作動性神経が、マウス胎齢12日から形成され、生後すぐにはグリシンを共放出する神経終末となり、生後14日目には主にグリシン作動性神経になる。③マウス胎齢12日には運動神経細胞にKCC2の発現が認められ、出生時までにはGABAの抑制性応答は始まる可能性がある。 また、前肢付き脊髄摘出標本を用い、5-HT存在下で、GABA受容体の阻害剤であるbicculline又はグリシン受容体の阻害剤であるストリキニンを添加し、神経活動を記録したところ、そのパターンに大きな違いを生じることがわかった。 以上の研究成果から、胎児期そして出生後の運動機能発達には、GABAやグリシン作動性神経の形成すなわち抑制性伝達物質の放出とその抑制性応答が重要であることが明らかになった。
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