研究実績の概要 |
胎芽・胎生期および乳幼児期の環境は、将来の虚血性心疾患、糖尿病、高血圧、メタボリック症候群、脳梗塞、神経発達障害などの非感染性慢性疾患(NCDs)発症リスクと関連する(DOHaD仮説)。本研究では、胎生期低栄養仔のメチルドナー不足によるエピジェネティクス変化に着目し、表現型により近い血中代謝物解析からNCDs発症リスク因子を同定,発症機序の解明を目指す。 胎仔期糖質カロリー制限を行なった母ラット仔へ出生後授乳期に母乳を介したメチルドナー補充を1週間行った。採取した血液をクロロホルム/メタノール/水で処理し、水層の血中極性代謝物をCE(キャピラリー電気泳動)/MS(質量分析)を用いて解析した。 母乳を介したメチルドナー補充は仔の血中コリンやベタインを増加させたことから有用であると考えられた。低栄養群血中で変動した代謝物のうち出生後1週間のメチルドナー補充により対照群レベルまで回復した5種の化合物A,B,C,D,Eを同定した。低栄養群離乳期(3週目)では上記代謝物のうちDのみ授乳期のメチルドナー補充による有意な変動がみられた。更に、離乳後通常食を摂餌した18週仔の血中ではA,B,C,Dが両群において授乳期メチルドナー補充により有意に減少していた。一方Eは対照群ではメチルドナー補充による変動はなく、低栄養群ではメチルドナー補充により対照群レベルへと近づく傾向があった。 Aは早期の耐糖能異常マーカーであることが報告されており、出生後早期のメチルドナー補充が、耐糖能異常の早期回復を促すという1つの可能性を示唆している。しかしながら、出生後1週間のメチルドナー補充により対照群レベルまで回復していた5種の化合物のその後においてメチルドナーの影響は、物質毎、時間ごとに変化していた。今後メチルドナーの影響が、どの時期にどの代謝に反映するのかに着目し表現型、代謝経路との関連性を探求する。
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