研究課題/領域番号 |
18K07829
|
研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
加賀 直子 順天堂大学, 大学院医学研究科, 助教 (80338342)
|
研究分担者 |
高 ひかり 順天堂大学, 大学院医学研究科, 助教 (60338374)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 胎生期低糖質カロリー制限 / 耐糖能異常 / メチルドナー補充 / 質量分析 / 脂質代謝 |
研究実績の概要 |
胎生期の低栄養環境は、成長後の高血圧・心疾患・糖尿病・精神疾患などの非感染性慢性疾患(NCDs)発症リスクの増加と関連する。その原因の一つとして、胎生期の低栄養環境がもたらす代謝関連遺伝子のDNAメチル化異常などのエピジェネティックな変化が挙げられる。これが記憶され、将来NCDs発症につながる代謝異常を惹起すると考えられる。これらは環境により可逆的に変化するものもあるが、次世代まで記憶されるものもある。 申請者らは胎生期低糖質カロリー制限食の母から生まれた低出生体重仔のDNAメチル化低下に着目し、胎生期低栄養仔のリスクに対する早期(妊娠後期・授乳期)メチルドナー補充の影響について研究を進めている。その結果、追いつき成長しなかった低出生体重仔群では早期メチルドナー補充による成長促進効果はみられなかったが、成長後のストレス応答の改善や高脂肪食負荷後の耐糖能異常における早期メチルドナー補充の有効性が確認された。 本研究では代謝の現状をより反映している血中代謝産物に着目し、質量分析を用いた代謝物解析から胎生期低栄養・メチルドナー補充による代謝変動と疾患との関連について解明を試みた。極性代謝産物の解析から、胎生期低糖質カロリー制限で変動した早期耐糖能異常バイオマーカーの血中レベルが、早期メチルドナー補充で回復傾向を示すことが示唆された。 2021年度は、胎生期低糖質カロリー制限および早期メチルドナー補充の脂質代謝への影響と疾患リスクとの関連について解明を試みた。肝臓の脂質代謝機能は胎仔期~新生仔期に曝された栄養環境よりDNAメチル化などのエピジェネティクス制御を受けて調節される。そこで既に分画した血中疎水性画分について高分解能質量分析計を用いた代謝物解析を行った。多様な脂質分子種を網羅的に検出するため、正・負両モードでの測定や定性情報を得るための開裂データの取得を行い変動解析を試みた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2021年度は、胎生期低糖質カロリー制限および早期(妊娠後期・授乳期)のメチルドナー補充がもたらす脂質代謝への影響を明らかにするため、血中疎水性低分子代謝産物の網羅的解析を試みた。脂質代謝と病態との関連について様々な報告がある。McGranaghanらは病態によって異なるもののリン脂質、スフィンゴ脂質、グリセロ脂質、コレステロールエステル, 脂肪酸, アシルカルニチンの一部の分子種が心血管障害における潜在的なバイオマーカーであること、そしてこれらの病理機構が炎症、酸化ストレス、インスリン抵抗性などと関連していることを報告した。(Metabolites. 2021;11(9):621.) 脂質には様々な分子種が存在しそれぞれ特有の物性を有しているが、同じ脂質分子種であってもその特性は構成する脂肪酸鎖に影響される。胎生期低糖質カロリー制限・早期メチルドナー補充により影響を受ける脂質代謝に関連した特有の分子種を探るためには、より詳細な解析が必要である。 本研究ではより多くの脂質分子種の網羅的な検出を目指し、液体クロマトグラフ‐超高分解能質量分析計(LTQ OrbitrapXL)を用い正・負両モードで分析を行った。得られた多くの分子種について溶出時間・精密質量・開裂データを元に、低分子比較解析ソフトCompound Discoverer及び脂質解析ソフトLipid Searchを用いて比較・定性解析を試みた。 しかしながら、サンプル数が多く比較する各データが膨大で非常に複雑であったことに加え群間での顕著な差異が見られなかったことから、ピークの確認と条件検討で解析はほとんど進まなかった。 更に、学内の依頼分析業務が多忙であり、低栄養とメチルドナー補充がもたらす脂質代謝への影響を解明することができなかった。以上のことから遅れていると評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
2022年度は、引き続き複雑な血中疎水性低分子代謝物のLC/MSデータについて、低分子比較解析ソフトCompound Discoverer及び脂質解析ソフトLipid Searchを用いた比較・定性解析を行う。 そして胎生期低糖質カロリー制限がもたらす脂質代謝への影響や、低栄養によるDNAメチル化低下に対し妊娠後期・授乳期のメチルドナー補充が、変動した脂質代謝にどのように影響するかを解明することで早期の介入による代謝改善の可能性を探る。 血中疎水性画分を用いた網羅的な脂質解析において、完全分離ができない場合イオン化がより弱く存在量の少ないものは正確な定量ができない。可能であれば有用な変動がみられた脂質代謝経路に関しては、三連四重極質量分析計を用いて脂肪酸分布を含むより詳細な定量解析を行いたい。 代謝によって産生される代謝産物は、その時点での代謝の状態を反映しており表現型により近いと考えられている。授乳期メチルドナー補充の低栄養仔における成長後のストレス応答の改善や高脂肪食負荷後の耐糖能異常における有効性という表現型の結果と本研究で行った質量分析による血中代謝産物の解析結果を統合し、胎生期低糖質カロリー制限がもたらすリスクに対する早期メチルドナー補充の有用性およびその機序を明らかにする。 早期メチルドナー補充による改善可能な代謝を明らかにすることにより、低栄養低出生体重仔のリスクに対する早期介入の有効性を見出し、仔のNCDs発症を惹起する可逆的な負の記憶を打ち消し将来のQuality of life (QOL)の向上につなげることを目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2021年度予算の使用は、主に脂質解析を行うための消耗品(カラム・溶媒・標準物質・LC/MS消耗品)・学会費・データ保管に関するものであった。コロナ禍により学会開催がオンラインになったことから旅費の使用がなく、2022年度への持ち越しが生じる結果となった。 2022年度は、定量分析用の消耗品の他、研究結果を報告するための学会費、旅費、参加費およびデータ保管用媒体の購入等に使用する予定である。
|