研究課題
先天性好中球減少症(CN)は現在15種類以上の責任遺伝子が同定されているが,その病態の詳細が明らかとされていない疾患がある。本研究では重症先天性好中球減少症の一つで,最も頻度が高い好中球エラスターゼ遺伝子(ELANE)変異によるCNならびにリボゾーム蛋白をコードするSRP54遺伝子変異によるCN(昨年本邦初の2家系3症例を同定)の病態を,それぞれ患者から樹立したiPS細胞を用いて,in vitroで検討を行っている。iPS細胞を造血細胞から骨髄顆粒球系に分化を行い,骨髄芽球,前骨髄球をFACSAriaにて純化し,細胞死のマーカーであるannexin VならびにPIにて染色,早期アポトーシスの亢進を確認した。特にELANE変異の好中球減少症では細胞死が著明であり,この現象が患者骨髄像でみられる前骨髄球から骨髄球レベルでの成熟障害を反映していると考えられた。一方,患者由来iPS細胞のELANE遺伝子をゲノム編集技術で修復を行い,同様に分化後の細胞死の検討では,明らかな細胞死の亢進が認められなかったことから,前骨髄球レベルで発現が著明となる好中球エラスターゼ変異が細胞死亢進に起因していることが証明された。変異好中球エラスターゼの関与を検討するために,患者由来と正常人由来iPS細胞にいて,好中球エラスターゼをノックアウトし,発現を抑えることにより,正常人由来好中球分化は全く変化が認められなかった。同時に患者由来の好中球分化もほぼ正常と同等に正常分化ならびに細胞死の亢進も認められなかった。以上から,変異好中球エラスターゼが何らかの蛋白分解を促進することにより,成熟障害の原因となっていることが推測された。現在,種々の変異エラスターゼの基質となる蛋白の同定をプロテオミクス解析から同定を試みている。またSRP54変異についてもプロテオーム解析を進行している。
2: おおむね順調に進展している
iPS細胞からの分化は順調に進んでおり,一部では患者由来前駆細胞での細胞死の亢進を確認できている。今後は変異好中球エラスターゼの役割を明らかとしていく予定である。また本邦初で同定したSRP54変異好中球減少症の病態解析も並行して検討を行っており,両疾患の病態解明に向けて進行中である。
変異好中球エラスターゼの役割を明らかとするために,プロテオーム解析を進行している。本解析により,変異酵素の基質の一部を同定することが可能となる。基質の同定は細胞分化における重要な蛋白であると思われるので,細胞分化に必須分子の同定に繋がることが予測される。
研究計画は順調に進行しており,一部の消耗品の購入を追加をすることなく今年度の研究を施行した。次年度はここまでの研究実績の検証を含め,症例数を増加することで成果を確認する予定である。繰り越した15,4081円は次年度の消耗品費として,増加した研究対象症例の解析に使用予定である。
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PLoS one
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International Immunology
巻: 32 ページ: 259-272