研究課題
先天性好中球減少症(CN)は現在15種類以上の責任遺伝子が同定されているが,その病態が明らかにされていない疾患がある。本研究ではCNの代表的である好中球エラスターゼ(ELANE)遺伝子変異を有するCNの病態をそれぞれの患者から樹立したiPS細胞を用いて,in vitroでの解析を施行した。樹立iPS細胞を造血幹細胞から骨髄顆粒球系細胞に分化を行い,骨髄芽球,前骨髄球をFACSAriaで純化,細胞生存を検討した。細胞死マーカーであるAnnexin VとPI染色からその頻度を正常人由来iPS細胞からの分化細胞と比較した。CN由来細胞は正常人由来細胞に比し,有意に早期アポトーシス細胞が著明に増加していることが明らかとなった。この事実は患者骨髄で認められる前骨髄球と骨髄球間の成熟障害に一致した所見であった。CNの病態の一部が,細胞寿命の短縮に起因していることが推測された。次に,CN由来iPS細胞をゲノム編集技術を用いて,ELANEを完全にノックアウトした細胞を作製し,上記と同様な解析を行ったところ,正常人由来細胞と全く同等に増殖分化が認められた。また正常人由来細胞においてもELANEノックアウトにより,好中球減少が認められない事実が報告されていることから,ELANE変異CNにおける好中球減少の原因として,変異好中球エラスターゼが異常な蛋白分解を促進し,早期細胞死を誘導している可能性が示唆された。今後は細胞死に関与する種々の蛋白と蛋白分解酵素としての好中球エラスターゼの関与を詳細に検討することにより,早期細胞死に関与する分子の同定を行うと同時に,その分子の保護により早期細胞死が抑制されることをiPS細胞由来の分化細胞で確認して行く必要性が明らかとなった。患者由来iPS細胞のin vitroでの解析が病態解明ならびに新規治療へのアプローチとなる手法として有用であることが示唆された。
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