研究実績の概要 |
我々が独自に開発した、虚血性脳障害モデルマウス(Kubo,Deguchi, et al., JCI Insight, 2017)を用いて、細胞移動の障害が生じる神経細胞の分子プロファイルの変化についての解析を進めた。実際には、マウス子宮内胎児電気穿孔法等を用いて、発達中のマウス胎仔脳の神経細胞に蛍光タンパク質を発現するプラスミドを導入することによって、あらかじめ神経細胞の可視化を行っておいた。生後の虚血性脳障害モデルマウスと対照群のマウスの脳から、蛍光タンパク質を用いてセルソーターによって移動中の神経細胞を抽出したのち、それらの細胞からRNAを抽出してマイクロアレイ解析を行った。その結果、得られた候補分子について、実際に虚血性脳障害モデルマウスと対照群のマウスの脳で発現が変化しているか、検証を開始した。 また、これまでに確立したマウス子宮内電気穿孔法を用いた部位特異的神経細胞ラベル法に加えて、最近開発されたフラッシュ・タグ法を改変した新たな手法を用いて(Yoshinaga, et al., in preparation)、脳内の異なる領域の細胞移動を同時に可視化した。その結果について定量を含めた解析を進め、虚血性脳障害モデルマウスにおいて、これまでに注目していなかった大脳皮質の領域においても神経細胞移動の変化を見出した。また、その過程で、これまで一見均一に見えていた新皮質における細胞移動が、実は脳の領域によって、かなり違いが大きいことを見出した。また、この差が明瞭な時期と、さほど違いが明瞭でない時期があることも新たに明らかにした。このように、時期と領域による神経移動の違いについて、新規手法を用いて詳細に観察し、その結果をまとめて、論文として投稿するための準備を行った。
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今後の研究の推進方策 |
我々が独自に開発した虚血性脳障害モデルマウス(Kubo,Deguchi, et al., JCI Insight, 2017)に対し、これもまた独自に確立したマウス子宮内電気穿孔法を用いた部位特異的神経細胞ラベル法(Tomita*/Kubo*, et al., Hum.Mol. Genet., 2011、Ishii*/Kubo*, et al., J. Neurosci., 2015)を用いて蛍光タンパク質を移動中の神経細胞に導入し、その後に虚血を誘導することで移動中の神経細胞を可視化する。これら蛍光タンパク質によってラベルされた細胞を中心に様々な脳領域における細胞配置と回路形成の解析を行い、障害されやすい脳領域と神経回路を引き続き明らかにしていく。それに加えて、最近開発されたフラッシュ・タグ法を改変した新たな手法を併せて用いて、これまでの年度で明らかにした時期と脳領域による神経移動の違いを解析の土台にしながら、虚血性脳障害モデルマウスにおいて、障害されやすい脳領域と神経回路を明らかにする。また、蛍光タンパク質でラベルされた細胞をFACSで回収して、それらの細胞からRNAを抽出してマイクロアレイ解析を行った。これにより、虚血性脳障害モデルマウスと対照群のマウスの脳で発現が変化する可能性のある、複数の候補分子を得ているため、その結果について進めている解析と検証を引き続き遂行して、虚血性脳障害モデルマウスにおいて機能が変化する神経細胞に生じる分子的変化を明らかにしていく。
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