研究課題
先天性QT延長症候群(LQTS)は若年者に突然死を来す遺伝性の不整脈疾患である。LQTSの主な原因は変異カリウムチャネルによる外向き電流の減少、または変異ナトリウムチャネルによる内向き電流の増加とされてきた。ところが、われわれの研究で、カルシウム動態に関連した遺伝子の変異もLQTSの発症に関与していることが明らかになった。心臓に多く発現するカルシウムチャネルであるCACNA1Cは、LQTS8型(LQT8)の原因として報告されていたが、Timothy症候群という心臓外症状を呈する重症のLQTSに限定されると考えられていた。ところが我々の解析で、Timothy症候群以外にもLQT8が存在することを明らかにした。これらのLQT8患者には、心臓外症状が軽度だが心肺停止を来したTimothy症候群から、学校健診でQT延長を指摘された無症候例も含まれている。これまで、46家系にCACNA1C変異を同定しており、LQT8の診断はLQTSのスクリーニングにおいて不可欠な遺伝型と考えられる。カルモジュリンをコードするCALM1とCALM2はLQT14とLQT15の原因遺伝子であり、2013年に報告された新しい遺伝型である。カテコラミン誘発性多形性心室頻拍とのオーバーラップもあり、重症の不整脈を呈するため、カルモジュリノパチーとも呼ばれる。これまでCALM1変異を2家系に、CALM2変異を6家系に同定したが、全て新規突然変異であった。現在、LQT8の原因遺伝子変異を培養細胞を用いて解析を行っている。また2つのCALM2変異について、ノックインマウスの作製を進めている。これらの解析を通じて、LQT8, LQT14, LQT15の病態解明を行うとともに、新規治療薬の開発を目指す。
2: おおむね順調に進展している
2018年4月1日から2020年3月31日までに389家系951人の遺伝性不整脈患者の登録を行い、380人の解析が完了している。このうち8人にCACNA1C変異を同定した。CACNA1C変異の解析については、研究施設の移転に伴い中断期間はあったものの、培養細胞を用いて順調に研究は進行している。カルモジュリン変異については、CALM1変異を1人に同定した他、以前の登録症例の再検査において、1例のCALM2変異を同定した。
引き続き新規LQTS患者の登録を行い、カルシウム関連遺伝子のスクリーニングを行う。また新規のCACNA1C変異については機能解析を進める。カルモジュリンは結合チャネルタンパクが複数にわたるため、培養細胞での機能解析が困難なため、これまでiPS由来心筋細胞を用いて解析を進めてきた。ただ、iPS由来心筋細胞では発現するチャネルタンパクが成熟心筋細胞とは異なっていることがあるため、今年度はノックインマウスを作製し、解析を進める。最終年度の今年は、これらカルシウム関連遺伝子関連変異保持者の臨床像とチャネル機能についてまとめ、論文を執筆する。
令和元年度は研究施設の移転があり、機能解析を予定通り実施することができなかったため、次年度使用額が生じた。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 4件、 招待講演 3件) 備考 (2件)
Circulation Journal
巻: 84 ページ: 559~568
10.1253/circj.CJ-19-1101
European Heart Journal
巻: 40 ページ: 2953~2961
10.1093/eurheartj/ehz309
Heart Rhythm
巻: 16 ページ: 1698~1706
10.1016/j.hrthm.2019.05.033
JAMA Cardiology
巻: 4 ページ: 246~246
10.1001/jamacardio.2018.4925
Pediatrics International
巻: 61 ページ: 852~858
10.1111/ped.13959
巻: 40 ページ: 2964~2975
10.1093/eurheartj/ehz311
http://www.ncvc.go.jp/res/divisions/bioscience/
http://www.shiga-med.ac.jp/~hqmed1/research/