研究課題/領域番号 |
18K07877
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
北岡 太一 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (20599229)
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研究分担者 |
木村 武司 大阪大学, 医学系研究科, 特任助教(常勤) (50774402)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 軟骨無形成症 / インスリン抵抗性 / 肥満 / 疾患特異的iPS細胞 / 脂肪細胞分化 |
研究実績の概要 |
軟骨無形成症 (achondroplasia: ACH) は四肢短縮と著明な低身長を呈しており、生活の上で問題となる疾患関連合併症が多い。肥満はその一つであるとともに他の合併症の増悪因子でもある。ACHの小児において適正な体重を維持することは、成人期のメタボリックシンドロームのリスクを減らすとともにQOLの改善につながると考える。本研究では、ACHにおける肥満とインスリン抵抗性の問題点を明らかにするために、患者コホートおよび疾患特異的iPS細胞による検討を行う。 健常小児の肥満の評価として性別年齢別の体重やBMI (body mass index) を用いるが、ACHでは著明な低身長のため健常児よりもBMIが高値であり、肥満を過大評価する可能性がある。そこで精度の高い体脂肪測定法であるDEXA (dual energy X-ray absorptiometry) 法によりACH小児の体脂肪率 (%BF) を測定し、肥満症例と非肥満症例を選別し、両群でのインスリン抵抗性およびメタボリックシンドロームの評価に関しての検討を進めた。インスリン抵抗性をHOMA-IRで評価し、インスリン抵抗性を示す症例の頻度、肥満度、BMI、腹囲、総コレステロール値、HDLコレステロール値、LDLコレステロール値、尿酸値、HbA1c、血圧を評価し、メタボリックシンドロームの診断基準を満たす症例の有無を検討した。インスリン抵抗性については、空腹時の血糖値には有意差がないものの、インスリン値は肥満群で有意に高く、HOMA-IRも同様であった。尿酸値、HbA1c、血圧に有意差はなかった。 疾患特異的iPS細胞による検討に関しては、iPS細胞より間葉系幹細胞を作成を行い、現在脂肪細胞への分化をすすめている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ACHの肥満判定基準となる体格指数を導き出すために、DEXA法による%BFを測定し、身体計測的なパラメーターによる肥満の指標について検討してきた。さらにACH小児のインスリン抵抗性およびメタボリックシンドロームに関する検討を進めるために、空腹時の血中インスリンおよびグルコース濃度よりHOMA-IRを算出し、肥満度、BMI、腹囲、総コレステロール値、HDLコレステロール値、LDLコレステロール値、尿酸値、HbA1c、血圧について解析を進めた。ACH症例42例についてDEXA法による%BFを指標に肥満群11例、非肥満群31例の2群にわけて各パラメーターを比較検討したところ、これまでの検討と同様にWaist/Height比は肥満群で有意に高かった(p=0.007)。インスリン抵抗性については、空腹時の血糖値には有意差がないものの、インスリン値は肥満群で有意に高値であり(p=0.022)、HOMA-IRも肥満群で有意に高かった(p=0.027)。尿酸値、HbA1c、血圧に有意差はなかった。 またACH特異的iPS細胞由来の脂肪細胞を用いて、FGFR3異常が脂肪細胞に及ぼす影響を検証するために、iPS細胞から間葉系幹細胞を介して脂肪細胞へ分化させる実験を進めている。現在、ACH症例3名と健常対照1名のiPS細胞より中胚葉系および神経堤細胞系の2種類の方法で間葉系幹細胞を作成した(PLOS ONE | https://doi.org/10.1371/journal.pone.0200790 July 25, 2018)。作成した間葉系幹細胞を経て脂肪細胞へ分化させ、その過程におけるFGFR3などの遺伝子発現の検討を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
これまで得られたデータの解析によりACH小児の肥満判定基準となる体格指数を導出し、肥満群におけるインスリン抵抗性およびメタボリックシンドロームのリスク因子について解析を進める。またACHの原因となるFGFR3異常が脂肪細胞に及ぼす影響を検証するために、ACH特異的iPS細胞から間葉系幹細胞を経由して脂肪細胞へ分化させ、その過程におけるFGFR3や脂肪細胞マーカー遺伝子の発現に関する検討をすすめる。成熟脂肪細胞が分泌するアディポサイトカイン(アディポネクチン、レプチン)および関連物質(遊離脂肪酸、TNF-α、IL-6、PAI-1など)を測定し、併せてインスリン刺激による糖取り込み能を評価することでインスリン感受性に影響する因子の有無を調べる予定である。さらにIGF-1存在下での各因子の変化を検討し、ACHにおけるインスリン抵抗性の有無および成長ホルモン治療によるインスリン感受性の変化についての検証を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
凍結保存していたiPS細胞の調整のための消耗備品が主体となっていたため次年度使用額が生じたが、最終的には間葉系幹細胞の作成まで進めることができたので、次年度以降は間葉系幹細胞から脂肪細胞への分化実験をさらにすすめ、分化過程における遺伝子発現、アディポサイトカインおよび関連物質の測定等の分子生物学的実験の段階に進んでいく計画となっているため、次年度分の助成金と合わせての使用が必要となる。
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