研究課題
生後早期の母子分離ストレス曝露で体重減少が軽度なモデルで、腸内細菌の動態変化と肥満との関係性を検証した。ストレス曝露群の体重増加は対照群と比較して差は見られなかった。一方で腸内細菌叢のメタゲノム解析では、生後21日においてストレス曝露群ではBacteroidetes門が増加する一方で、Firmicutes門が減少し、成熟後は更にその差がひらいていた。この腸内細菌叢の変動は肥満マウス研究で得られている知見とは一致しないこととなる。このことより、ストレス曝露と易肥満性との関連性は低いことが予想される。しかしBacteroidetes門の増加は慢性腎不全ラット等に認められ、ストレス曝露による極端な腸内細菌叢の動態変化は生活習慣病を引き起こしやすい体内環境を惹起している可能性は否定できない。この点はより詳細な解析によりLactobacillus門など少数の細菌叢を捉えて検討する必要がある。また、前年度に用いたストレス曝露モデルでは、内側前頭前皮質(mPFC)の組織学的解析で炎症に関する大きな変化を見つけられなかったが、mRNA発現レベルでM1型ミクログリアマーカーであるCD86が生後21日に増加し、その後はM2型(保護性)ミクログリアマーカーであるCD206が生後21-35日にかけて徐々に低下している事が見出された。M1型は炎症性因子の放出、M2型はBDNF発現など神経栄養因子の放出にも関わる事から、ストレス曝露後にも関わらず生後21日以降のmPFCの発達が阻害され続けていることが示唆される。実際に炎症による発現への影響が報告されるパルアルブミン(PV)陽性抑制性ニューロンを生後35日で評価したところ、PVのmRNA発現低下、PV陽性細胞数の減少が確認され、発達期ストレスはその後の持続的なミクログリア動態を変化させ正常な脳発達に影響を及ぼしている可能性が示唆された。
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