ストレプトゾトシンを腹腔内投与することにより糖尿病を誘発した妊娠母体から得られた胎児に発生遅延、頭部・体節形成異常が観察された。また母体血糖値と心臓の左右形態異常の頻度、側板中胚葉でのPitx2の発現パターンの間に相関性がみられた。一方、マウスのlate head fold期の胚を高濃度のグルコース添加条件で全胚培養を行ったところ、コントロール培地と比べて高グルコース培地では多くの胚で左右非対称性が崩壊していた。これらの個体では左右軸決定の初期ステップである原始結節でのNodal、Cerl2の発現が低下しており、この要因がノードにおける活性型NOTCH(NICD)の減弱によることを見出した。ノード周辺のNOTCHの発現にはWntシグナルが重要であることから、7.5日胚の原条で機能するWnt3およびWnt3aに着目した。BAC断片を用いたトランスジェニック法によりWnt3aのシス解析を行い、2カ所の原条エンハンサーを特定し、PSE1およびPSE2とした。PSE1には転写因子TCF/LEFの結合部位が存在していることから、CRISPR-Cas9法により点変異を導入したマウス(Wnt3aΔPSE1)を作出した。しかしながらWnt3aΔPSE1/ΔPSE1マウスの8日胚の原条では、野生型胚と比較してWnt3aの発現に変化はみられず、ホモ個体は生存可能であった。そこでWnt3aのexon1を欠失したマウスとWnt3aΔPSE1/ΔPSE1マウスを交配して得た8日胚を解析したところ、Wnt3aΔex1/ΔPSE1の原条におけるWnt3aの発現は野生型胚に対して低下していたものの、Wnt3aΔex1/ΔPSE1マウスに左右軸の異常は見られず生存可能であった。そのため、Wnt3aの原条における発現を減弱させるためにはPSE1とPSE2両方を欠失したマウスを作出する必要があると考えられる。
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