研究課題/領域番号 |
18K07893
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
松石 豊次郎 久留米大学, 付置研究所, 教授 (60157237)
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研究分担者 |
児島 将康 久留米大学, 付置研究所, 教授 (20202062)
高橋 知之 久留米大学, 医学部, 准教授 (20332687)
御船 弘治 久留米大学, 医学部, 准教授 (70174117)
山下 裕史朗 久留米大学, 医学部, 教授 (90211630)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | レット症候群 / モデル動物 / バイオマーカー / 突然死 / 不整脈 / 肺炎 / グレリン |
研究実績の概要 |
レット症候群(RTT)は発達障害病態解明の鍵となる疾患で、知的障害、成長障害、自律神経障害、睡眠障害、肺炎、突然死など多彩な症状を示すが病態は不明で未だ有効な治療法はない。現在まで、モデル動物、ES細胞、iPS細胞、およびRTT患者のiPS細胞を確立し、基礎的・臨床的に、1.病因・病態解明、2.バイオマーカー確立、3.新規治療法開発研究を行なった。現在治療法の無いRTT患児・者でのグレリンへの有効性に関する臨床的研究を開始し、ジストニア、振戦などの錐体外路徴候、自律神経症状への効果を証明した。病因では、典型例のRTT患児・者の約9割において遺伝子のメチル化および転写抑制にかかわるMECP2の変異が認められるが、残りの1割で、FOXG1,CDKL5等の遺伝子変異以外に、われわれは新たに、SHNK3遺伝子、HDAC8遺伝子、STXBP1遺伝子変異により発症したRTTを報告した。男児の典型例のRTT児を経験し、血液、毛根、唾液、爪から抽出したDNAを用い、MECP2変異遺伝子がモザイクに存在する事、更に多数の新規遺伝子変異を発見し報告した。RTTは突然死の報告があるが、モデル動物を用い、Tbx5の関与、心筋の介在版の未熟な形成が認められ、チャンネル遺伝子の発現変化とともに、不整脈の要因となる事を証明した。また、モデル動物の肺組織では、2型肺胞上皮細胞が減少する事、サブスタンスPが、脳幹の様々な領域で発現低下し、孤束核等での発現の低下が示され誤嚥性肺炎の機序解明をおこなった。新規治療法開発では、グレリンがRTTの病態に重要な役割も持っていると仮説を立て証明し、パイロット臨床研究を行い、世界で初めてレット症候群における難治のジストニア、振戦、自律神経症状、摂食に対する有効性を確認し、国際誌に報告した(Yuge, Matsuishiら, J Neurol Sci, 2017)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
レット症候群における原因不明群の遺伝子解明では、SHANK3, HDAC8, MTXBP1,および、その他の多数の遺伝子変異を共同研究者と協力し発見し、新規遺伝子も網羅し報告した。 ヒトRTTの病態解明の為、非侵襲的な各種バイオマーカーの開発中である。RTTでは従来、交感神経と副交感神経のアンバランスが考えられてきた。新規治療法開発に向けて、唾液を用いて、コーチゾール、メラトニンの日内変動、交感神経の優れたマーカーであるクロモグラニンA、および嚥下に関するサブスタンスPの測定系を開発中である。血漿中の総グレリン、活性型グレリン測定法は確立した。グレリングレリン、コーチゾール、メラトニン測定系は確立し応用しているが、唾液を用いた、非侵襲的なマーカーとしてクロモグラニンA、サブスタンスPの測定系は開発中である。グレリンの作用機序として、現在、薬理学教室と共同研究で、中脳辺縁系のドパミン神経路への直接作用、黒質線条体神経路への神経保護作用を介しての作用を推定しているが、モデル動物を用いた、脳内のmicrodialysis実験でドパミンの反応を様々な薬剤を用いた反応で確認中であり、興味深い結果が得られつつある。グレリンを用いたトランスレーショナル研究の開新規治療治療法開発では、現在まで、有効な薬剤は皆無であるが、グレリンの長期患者さん2名で自律神経機能、生理学的研究から研究を進め長期にわたる安全性、およびジストニアに対する有効性を証明し報告した。PMDA訪問の準備中であり、多施設共同での臨床試験のデザインを作成中である。
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今後の研究の推進方策 |
ヒトRTTで、唾液を用いたクロモグラニンA、サブスタンスPを測定し、自律神経のアンバランス(交感神経の過緊張)、および嚥下機能の評価をし、バイオマーカーとしての役割を検討する。ジストニアや嚥下障害は10歳前後から現れるが、ジストニア、嚥下障害のある患者さんで、上記症状のない患者さんと比較検討する。また、性別、年齢をマッチさせた健常児、および、他の神経発達障害との比較を行う。更に,RTT患者さんのQOLに関係し、突然死とも関係あると考察されているジストニアの臨床的評価方法を確立する。 当研究室では、ヒトRTTの優れたモデル動物、およびES細胞、iPS細胞を確立している。また、ヒトiPS細胞も既に、典型例で重症の3例、および軽症の発語を持つPreserved speech variant3例で確立している。これらの動物、および細胞を用いて、基礎研究でRTTの複雑な病態解明を進める。また、モデル動物を用いた研究、および細胞を用いた研究では、グレリンの中枢神経系での作用機序を解明し、ヒトでの新規治療法開発の為のデザインを進める。臨床研究開始前に、臨床評価法、重症度評価をのvalidityをおこない、集学的な体制、評価方法の統一を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の学内倫理員会審査の申請書作成が遅れたため、研究の備品、消耗品購入を2019年4月以降にずらしたため。本研究は、ES細胞、iPS細胞、およびバイオマーカー確立の為の備品、消耗品が多大であり、倫理委員会承認後は、直ぐに使用してしまう予定である。
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