研究課題/領域番号 |
18K07896
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研究機関 | 旭川医科大学 |
研究代表者 |
野津 司 旭川医科大学, 医学部, 教授 (30312367)
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研究分担者 |
奥村 利勝 旭川医科大学, 医学部, 教授 (60281903)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 過敏性腸症候群 / サイトカイン |
研究実績の概要 |
我々はこれまでの研究でサイトカインシグナルが,過敏性腸症候群(IBS)の実験動物モデル[反復water avoidance stress(WAS);慢性精神ストレス]で見られる内臓知覚過敏と腸管透過性の亢進に関与することを示した.Dehydroepiandrosterone-sulfate(DHEA-S)はヒトで流血中に見られるステロイドホルモンの中で,最も量が多いものであるが,はっきりとした生理的な役割は明らかになっていない.しかしその補充は心血管イベントの抑制効果を認め,サイトカインシグナルの抑制効果を併せ持つことが知られており,欧米では市販されサプリメントとして広く使用されている.我々はDHEA-Sが上記のIBSモデルでNO,ドパミンD2,GABAA受容体を介して内臓痛を抑制し,腸管バリアーを正常化することを明らかとし,IBSの治療に効果がある可能性をEuropean Journal of Pharmacologyに報告した.さらにDHEA-Sのこの効果は,corticotropin-releasing factor(CRF)2受容体を介することも明らかとした.CRF2はストレス反応を収束させる作用を持つことを我々は報告しており,これはDHEA-Sが抗ストレス作用を生体内で司っていることを示唆する結果であり,このホルモンの生理的役割を示しているものと思われる.次に酪酸の注腸投与,降圧薬のロサルタンも,このIBSモデルで同様な作用を示すことを明らかとし,それぞれScientific Reports,Neurogastroenterology and Motilityに採択された.以上のように,本研究は,これらの既存薬剤が,IBSにも効果を示す可能性を指摘し,これらを使用したIBS治療の臨床応用への道を開くことができたと考えている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記に示したように,これらの結果は以下の3編の論文として報告した.メタボリックシンドロームに奏功する薬剤がIBSモデルで,その腸管機能変化を抑制することを示すことができたので,メタボリックシンドロームとIBSの病態共通性という仮説が,より一層裏付けられることになった.以上より,研究は順調に進展していると判断している.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究結果の一つで,ロサルタンはアンギオテンシンIIタイプ1受容体拮抗薬であるが,この薬剤がIBSモデルの内臓機能変化を阻止したということであり,これはストレスによりアンギオテンシンIIのシグナルが活性化し,内臓機能変化を起こしたということに他ならない.これは,アンギオテンシンIIは消化管のストレス反応を司るストレスホルモンである可能性を示唆している.これは全く新しい概念であり,今後はアンギオテンシンIIタイプ2受容体拮抗薬等も使用して,この仮説が正しいか明らかにしていきたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究は順調に進捗しているが,実験消耗費を極力節約したり,学会参加回数を減らし,成果は論文発表を主体とすることなどにより,予定より使用金額が減少した. 来年度以降は,繰り越し金を計画的に使用して,今年度に得られた新しい知見のさらなる探求(アンギオテンションIIと消化管ストレス反応)を進めていく.
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