炎症性腸疾患(IBD)には好発部位を認めるが、好発部位に発症する分子機構は不明である。しかし発症後の病変部における解析は炎症の修飾を伴った発症後の病態を反映するものであり、発症時の本態は埋伏されるため不明である。申請者の教室で独自に構築したマウス大腸オルガノイドを発展させ、同一患者由来の病変部・非病変部のオルガノイドを樹立することで生体内での炎症背景差異をリセットした状態での解析が可能になると着想した。つまり、病変部由来オルガノイドの解析は非病変部と比較することで発症時の本態を描出できると考える。さらに潰瘍性大腸炎の大腸・クローン病の小腸それぞれの病変部に共通する特異的因子を同定することはIBD本態の根幹に関わる因子の同定が期待でき、これまでと異なる腸管上皮細胞を標的とした治療薬の開発にまで発展できる計画である。本研究では1)IBD患者の病変部・非病変部の腸管上皮オルガノイドにおける機能差異、2)IBD病変部共通の特異的遺伝子の同定、3)IBD病変部特異的遺伝子における上皮細胞機能・疾患本態との関与解析を中心課題とし、炎症背景を除去した病変部特異的且つ疾患に共通する上皮細胞機能を抽出することによりIBD疾患の本態を明らかとすることを目的とする。 1)病変部小腸・大腸オルガノイド機能解析においては、潰瘍性大腸炎患者同一人物病変部の直腸及び非病変部の上行結腸より大腸オルガノイドを樹立した。さらに、クローン病患者同一人物病変部の回腸末端と非病変部の空腸より小腸オルガノイドを樹立した。同一人物の病変部、非病変部由来のオルガノイドの機能解析を行った。具体的には増殖、幹細胞分画、炎症刺激応答、炎症刺激耐性を評価し、病変部における炎症脆弱性を明らかとした。 2)病変部特異的遺伝子の抽出においては、両部位のマイクロアレイにより発現差異のある遺伝子を抽出し、その遺伝子発現による機能解析を行った。
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