研究実績の概要 |
10名の炎症性腸疾患患者(潰瘍性大腸炎7名、クローン病3名)に対し、健常者ドナーより便微生物移植を行い、治療前後の便および大腸粘膜検体を採取した。便微生物移植を施行した潰瘍性大腸炎患者では、3例で著効、1例で有効、3例で無効であった。患者およびドナーの便、ならびに大腸粘膜よりDNAを抽出し、whole genome shotgunシーケンシング用のライブラリを作成した。ライブラリのサイズを確認後に、イルミナMIseqを用いてシーケンシングを行った。得られたリードからヒトゲノム配列、PCR複製の除去を行い、QIIMEを用いて細菌組成解析、UniFrac法による距離計量・多様性解析などのデータ解析を行った。便微生物移植で著効を認めた患者では、便中の細菌組成が大きく変化し、ドナーの組成に近づいたが、無効例では変化が乏しかった。つまりドナー便細菌が生着することが便微生物移植の成否に非常に重要なことが示された。有効例と無効例の臨床背景を確認すると、無効例でステロイドが併用されていた。ステロイドがドナー便細菌の生着を阻害する理由として、IL-17AやIL-22などのサイトカイン発現、IgAやIgGなどの免疫グロブリン発現、ディフェンシン, Reg IIIアルファやガンマなどの抗微生物ペプチド発現、Muc 2やMuc 5ACなど粘液形質の変化や、粘液の分泌量の変化などが考えられた。これらのうち、Muc 2がドナー便細菌の生着に最も必要な分子であることが明らかとなった。
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