研究課題
多くの疫学研究から、肝炎ウイルス非感染者からの肝発癌の多くが、肥満や糖尿病などの代謝異常を合併していることが明らかとなっており、非常に多数の肥満、糖尿病患者の中から肝病態進行例を抽出すること、またその治療戦略を確立する必要がある。申請者はB細胞活性化因子(BAFF)がインスリン抵抗性を誘導するアディポカインであることを見出し、脂肪性肝疾患の肝脂肪化に関与することを明らかにしてきた。今回の研究では、BAFFの脂肪性肝疾患の肝線維化への役割について、ノックアウトマウスを用いた動物モデルや細胞を用いて明らかにした。まず、高コレステロール含有高脂肪食飼育に加えて四塩化炭素を投与することにより線維化を伴う脂肪性肝炎(NASH)モデルを確立した。BAFF欠損マウスでは野生型に比べて肝脂肪化、炎症、線維化が軽減し、肝臓の中性脂肪含有量、コラーゲン含有量が少なかった。また、BAFF欠損マウスの肝臓では炎症性サイトカイン、ケモカインの発現が野生型より低く、TGF-βやCol1aも低発現であった。既報のNASHモデルでも同様の結果が得られた。単離した肝星細胞にはBAFF受容体の発現はなく、BAFFを添加しても肝星細胞の活性化がみられなかった。BAFF欠損マウスの肝臓では炎症性サイトカイン、ケモカインの遺伝子発現が野生型に比しBAFF欠損マウスでは野生型に比べて肝内のM1マクロファージ数およびM1/M2マクロファージ比が低下し、マクロファージからの炎症性サイトカイン産生も低下していた。また、マクロファージ細胞株にBAFFを添加すると炎症性サイトカイン産生は増加した。以上から、BAFFは脂肪性肝疾患の肝脂肪化、炎症に加えて線維化進展に関与していることが明らかとなった。BAFFは脂肪性肝疾患の治療標的の一つと考えられた。
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