研究課題/領域番号 |
18K07922
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
工藤 正俊 近畿大学, 医学部, 教授 (10298953)
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研究分担者 |
西田 直生志 近畿大学, 医学部, 准教授 (60281755)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 腫瘍免疫 / 肝細胞癌 / 遺伝子変異 / PI3K / βカテニン |
研究実績の概要 |
昨年に解析に用いた154例の肝癌およびその非癌部肝を用い、(1)PD-L1, PD-1, LAG-3, TIM-3の腫瘍細胞、CD8+腫瘍浸潤リンパ球(TIL)での発現、3種の幹細胞マーカー発現を、免疫染色にて解析した。409種の癌関連遺伝子とTERT promoterの変異を検討し、TILでの局在確認のため、PD-1, LAG-3, TIM-3 とCD8の2重染色を行った。(2)TCGAデータベースから得た377例の肝癌のデータセットを用い、結果を確認した。 (1)肝癌細胞のPD-L1発現はCK19及びSALL4発現と相関した。PD-L1陽性肝癌はCD8+TIL量が有意に多く、TILには複数の抑制型受容体が発現していた。一方、PI3K-Akt経路に活性型変異を持つ肝癌はPD-L1陽性肝癌に多く、しかしPI3K-Akt変異陰性のPD-L1陽性例と比べ、CD8+TIL量は少ない。他方、βカテニン経路の活性型変異を持つ肝癌はPD-L1陰性 かつCD8+TILに乏しかった。(2) TCGAコホートでも腫瘍のPD-L1発現はPI3K-Akt経路活性型変異と正の関連 (OR=2.7447, 1.0212-7.3766)、及びβカテニン経路活性型変異と負の関連 (OR=0.0083, 0.0011-0.6306)を示した。すなわち、PD-L1陽性肝癌は幹細胞マーカー陽性が多く、TILが多い"immune hot-type"を示した。TIL由来IFN-γ等がPD-L1発現を誘導したと解釈でき、TILには複数の抑制型受容体が発現している。しかし、PI3K-Akt変異を持つPD-L1陽性肝癌ではTILが比較的少なく、CD8+TILからの刺激なくPD-L1が誘導される可能性がある。一方、βカテニン経路活性型変異を持つ肝癌はPD-L1陰性かつ"immune clod-type"を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は昨年の成果に加え、新たなIC関連分子(PD-L1, PD-1, LAG-3, TIM-3)の腫瘍細胞、CD8+腫瘍浸潤リンパ球(TIL)での発現を、免疫染色にて解析した。また、抑制型受容体の発現細胞を同定するため、CD8とPD-1, LAG-3, TIM-3の蛍光2重染色を行った。また、昨年に56例にのみおこなった409遺伝子に対する網羅的遺伝子変異解析を154例全例に対して行った。また、その結果を公共データベース(TCGA)からダウンロードした377例の肝癌のexome, transcriptomeデータセットを用い検証した。その結果、遺伝子変異によるPI3K-Akt・βカテニン経路活性化が腫瘍免疫環境に影響し、特にβカテニン経路活性型変異の存在は、腫瘍内のCD8+ T細胞浸潤や腫瘍でのPD-L1の発現に乏しく、免疫チェックポイント阻害剤の効果に負の影響を与える可能性が示された。また、PI3K-Akt経路活性型変異と腫瘍のPD-L1発現に相関が得られたため、計画に基づき、PI3KCAのトランスジェニックマウスから発生した肝癌でのPD-L1の免疫染色を行い、その発現が確認された。
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今後の研究の推進方策 |
令和1年度の解析では、特にβカテニン経路活性型変異を持つ肝癌はCD8+ T細胞浸潤に乏しい"immune clod-type"であり、免疫チェックポイント阻害剤の効果が得られにくい可能性が示唆された。一方、PI3K-Akt変異を持つ肝癌はPD-L1を発現するが、CD8+ T細胞浸潤が十分ではなかった。我々は、キーオープンされた臨床試験検体にて、ヒト肝癌で肝腫瘍生検を施行後、免疫チェックポイント阻害剤を使用した症例の腫瘍組織を保存している。令和2年度は、それらの検体を用い、腫瘍組織のβ;カテニン経路活性型をβカテニンおよびグルタミンシンセターゼの免疫染色にて判別し、腫瘍組織のCD8、PD-L1の免疫染色を追加し、βカテニン経路活性化の免疫チェックポイント阻害剤の効果に及ぼす影響を明らかにする。また、同様にPI3K活性化と免疫チェックポイント阻害剤の効果の関連を解析する。PI3K活性型変異マウスを用い、発生した肝癌組織のT細胞、マクロファージの浸潤の多寡、浸潤細胞の抑制型受容体発現を解析し、これらの肝癌連シグナルが腫瘍免疫環境を変化し得るかを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和1年度では、一部の蛍光2重染色用の抗体(PD-L1とCK19)およびβカテニン経路活性化の判定に用いる抗体(βカテニン、グルタミンシンセターゼ)の染色条件の設定に時間がかかり、全ての試料を判定する十分な量の試薬の購入を控えていた。現在はこれらの免疫染色の条件が確定し、順次、試薬を購入している。また、PI3K活性型変異マウスの肝癌における免疫チェックポイント関連分子の発現に必要な試薬類の購入が遅れており、これらも順次購入している段階である。
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