研究実績の概要 |
2019年度は2018年度に行った古典的鋸歯状腺腫128病変のシークエンス解析結果(MAPK経路BRAF, KRAS, NRAS;WNT経路 RSPO fusions/overexpression, RNF43, ZNRF3, APC, CTNNB1;GNAS)を基に、遺伝子変異と病理組織学的所見との関連について解析を行った。 結果、古典的鋸歯状腺腫に高頻度のMAPK経路の遺伝子変異(124病変、97%)とWNT経路の遺伝子変異(107病変、84%)、活性型GNAS変異(10例、8%)を同定した。RSPO fusion/overexpressionはKRAS変異と、RNF43変異はBRAF V600Eと有意に関連していた。さらに、また、顕著な異所性陰窩形成は、RSPO融合/過剰発現(58%)とGNAS変異(100%)を有する古典的鋸歯状腺腫に特徴的であった。以上より、古典的鋸歯状腺腫のほとんどがWNT経路とMAPK経路の遺伝子変化を同時に有している事が明らかになった。 NT経路とMAPK経路の遺伝子変異の組み合わせは様々であり、古典的鋸歯状腺腫の組織学的多様性が根本的な分子の不均一性を反映していることが示唆された(Sekine S, Yamashita S, Yamada M, et al. J Gastroenterol. 2020;55:418-427)。 また、細くかつ長い内視鏡が鋸歯状病変を含む患者の大腸内視鏡挿入へ与える影響を検討した。通常径・長の内視鏡と比較し、盲腸到達時間が短く、患者に与える苦痛も有意に少ない事を明らかにした(Inoki K, Yamada M*, et al. Turk J Gastroenterol 2019; 30: 630-5. *, corresponding author)。さらに、鋸歯状病変の一つである広基性鋸歯状病変の内視鏡治療で有効な牽引方法を経験したため症例報告した(Chen HY, Yamada M*, Saito Y. Dig Endosc. 2019;31:333. *, corresponding author)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1)古典的鋸歯状腺腫の臨床病理像と遺伝子変異の関連解析 2019年度は古典的鋸歯状病変の具体的な臨床病理像と遺伝子変異の関連解析を行った。解析には古典的鋸歯状腺腫と診断された128病変を用いた。本研究から古典的鋸歯状腺腫のほとんどがWNT経路とMAPK経路の遺伝子変異を同時に有している事が明らかになった。この結果によってWNT経路とMAPK経路の遺伝子変異の組み合わせは様々であったことから、古典的鋸歯状腺腫の組織学的多様性が根本的な分子の不均一性を反映している可能性がわかり、本研究を行う上で大きな進歩となった。この結果は論文発表した(Sekine S, Yamashita S, Yamada M, et al. J Gastroenterol. 2020;55:418-427)。
2)古典的鋸歯状病変の内視鏡所見と遺伝子変化の関連解析 上記の128病変の内視鏡的所見について再評価を行い(肉眼型、色調、併存病変の有無、JNET分類、不随するpit pattern分類など)、遺伝子変異との関連解析を行った。1)の結果と類似して、内視鏡所見と遺伝子変異の組み合わせは様々であり、内視鏡所見にも多様性が確認された。2020年度の課題として引き続き関連解析を継続する。
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