研究課題
好酸球性消化管疾患は食事や吸入抗原をアレルゲンとし、Th2優位の過剰な免疫応答により消化管に好酸球炎症と機能異常を生じる慢性アレルギー疾患である。病変の罹患範囲により好酸球性食道炎と好酸球性胃腸炎に分類されるが、好酸球性食道炎において男性優位(男女比約4:1)に発症する要因については明らかではない。私共は好酸球性消化管疾患の発症に関わる性差の原因を明らかにすることを目的として本年度は以下の成果を得た。①ヒト食道生検材料を用いた検討:未治療の好酸球性食道炎患者(男性10例、女性4例)の食道生検組織を用いてCAPN14関連遺伝子であるIL-13、IL-33、DSG-1、eotaxin-3などの発現について定量PCRおよび免疫組織学的染色にて検討した。IL-13、IL-33、eotaxin-3の発現は健常コントロール(2例)に比べ有意な発現亢進を認めた。また、食道上皮のバリア機能に関連する蛋白(EDC)であるfilaggrin, involucrinの発現は好酸球性食道炎群において著明な発現低下を認めた。しかしこれらの発現は男女間での有意差は見られず、好酸球浸潤数との関連性も低い結果であった。②食道扁平上皮株を用いたオルガノイド培養系での検討:食道扁平上皮株をcollagen-fibronectin coated Transwellで培養しオルガノイド培養系を確立した。この培養系にIL-13を添加し、濃度依存性にeotaxin-3が誘導されることが確認された。さらにdihydrotestosterone(DHT)およびestradiolを添加することでeotaxin-3の誘導に変化がみられるかについて定量PCRおよび培養上清中の蛋白濃度を評価したところ、DHT投与群においてeotaxin-3の発現の亢進が見られた。一方、estradiol添加によっては有意な変化は認めなかった。
3: やや遅れている
好酸球性消化管疾患のうち、好酸球性食道炎は本邦においては内視鏡検査5000例に1例程度に認められる稀な疾患であった。最近5年間において有病率の増加を認めているが、欧米と比較するとまだ低い。臨床的には海外の報告と同様に患者の約8割が男性であり、これは他のアレルギー疾患には見られない特徴であることから、今回発症に関わる性差の要因に着目して検討を進めている。上記のように好酸球性食道炎が男性優位の疾患であるため、女性患者の検討例が目標数(10例)まで達していない。また、生検材料から食道上皮を単離し、3Dマトリゲルを用いてオルガノイド培養系を作成しているが、細胞の維持が困難であり培養条件の調節を行っている状況で、培養系にプロトンポンプ阻害薬を投与し、CAPN14関連因子を中心とした発現解析が男女間で差があるかについては、まだ安定した結果が得られていない。しかしながら、食道扁平上皮株を用いたオルガノイド培養系については確立しており、男性ホルモンであるDHTの投与によりIL-13によるeotaxin-3の誘導がみられることが示されており、この培養系を用いて発症の性差に関わる要因となる可能性についてさらに解析を行っている段階である。
これまで好酸球性食道炎の性差に関しては臨床所見を元に解析を行っており、女性例で平均年齢が高いが、アレルギー疾患の併存やH. pylori感染率には差がみられていない。また、高齢になると男女差がなくなることも明らかにしており、性ホルモンが発症の性差に影響していると仮説を立てた。今回の検討で男性ホルモンであるDHTが好酸球性食道炎の発症に重要なケモカインであるeotaxin-3を誘導することが見いだされ、今後さらに男性ホルモンが発症にどのように関連しているかについて検討を進めていく。生検材料を用いたこれまでの検討でCAPN14関連因子の発現に有意な差が認められていないことより、生検材料を用いたオルガノイド培養系の確立が困難であれば引き続き、培養細胞を用いた培養系での検討を進める。培養細胞での検討が推進されれば、好酸球性食道炎モデルマウス(雄性、雌性)を作成、発症後の食道上皮でのCAPN14関連因子での発現検討および性腺除去によって病態がどのように変化するかどうかについての検討も進めていく。
(理由)本年度に使用する分子生物学的研究用の試薬、培養用試薬、免疫染色用の抗体、プラスティック器具などについて購入費用を計上していたが、当研究室に保有のものを使用するなどして、必要量が少なくなるなり、購入に要する費用が予定よりも少なくなった。(使用計画)次年度は培養細胞を中心とした検討および好酸球性モデルマウスの作成を行う予定であり、各種試薬の購入費用、動物実験、および学会参加費などに充てる予定である。
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