ヒトを含めた高等生物のゲノムにのみ100%保存された超保存領域(ultraconserved region: UCR)はゲノム上に481か所存在するが、生理学的意義は未だ不明である。UCRより転写されたRNA群(Transcribed-UCR: T-UCR)の一部は、発生段階及び疾患特異的な発現パターンを示すことが報告されている。 本研究では、セリン・アルギニン(SR)スプライシング調節因子(SRSF)ファミリーより転写されたT-UCRががん関連RNAとして働くことを見出し、その発現調節機構を明らかにすることを目的とした。 RNA in situ hybridizationにより、TRA2B遺伝子領域より転写されるT-UCR、uc.138は増殖が盛んな大腸がん組織部位に高発現することを見出した。さらに、uc.138を安定過剰発現させたHCT116細胞においては、細胞増殖、抗がん剤耐性能、腫瘍形成能がそれぞれ亢進することを確認した。さらに、uc.138はRNAメチル化コンセンサス配列を含んでおり、メチル化アデノシンを検出する抗体によって免疫沈降により、大腸がん細胞において有意にメチル化されていることを見出した。さらに、RNAメチル化認識タンパク質YTHDC群と結合し、UCR領域のインクルージョンが起こることでuc.138の発現が増加した。また、RNAメチル化酵素であるMETTL3は大腸がん組織において、正常大腸上皮に比較して有意に発現が亢進することを見出した。 以上の結果より、超保存領域を含んだRNAは配列特異的に大腸がん細胞の増殖を促進させ、その発現はRNA修飾によって調節されている可能性が示唆された。
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