研究課題
膵癌の膵実質内への局所浸潤が強い領域では、間質浸潤とともに膵癌周囲の膵腺房細胞の萎縮(Cancer-associated Acinar atrophy)が起きている。本研究では、膵癌微小環境を構成する細胞のheterogeneityに着目し、Acinar atrophyを誘導する責任細胞の同定とその機序を解明することで、新たな膵癌局所浸潤の治療法の開発を目的とする。本年度は、膵癌患者における術前化学療法投与例及び非投与例の手術検体より膵癌細胞、膵星細胞の樹立を多数行った。また、膵癌自然発生マウス(KPC、KPCL)より膵腺房細胞を抽出し三次元培養による腺房細胞の可塑性モデルを構築した。ヒト及びKPCの膵癌病理組織的解析では、膵癌膵実質浸潤部において間質浸潤やAcinar atrophyにともないADM(Acinar-to-ductal metaplasia)様な形態変化が起きていることに着目し、腺房細胞の可塑性と癌局所浸潤との関連について解析を進めた。マウス膵同所移植モデルでは、腺房細胞の可塑性によって膵癌周囲の間質誘導及び膵癌局所進展が増強されることを見出した。異なった組織微小環境に由来するADMの遺伝子発現解析では、癌関連ADM、慢性膵炎関連ADM、正常膵孤発性ADMにおいて異なった遺伝子発現プロファイルを示すことを明らかにした。これらの結果は膵癌局所浸潤におけるAcinar atrophyの機序の解明につながるものであり原著論文として発表した。さらに、膵癌細胞のheterogeneityに着目した研究では、CD110を高発現する膵癌細胞集団で細胞遊走能・浸潤能が増強し、血管外浸潤及び高肝転移能との関連を明らかにし、原著論文として発表した。
2: おおむね順調に進展している
本研究計画に沿って、膵癌切除組織より多数の治療耐性膵癌細胞、膵星細胞の樹立を行った。またKPC、KPCLマウスより膵腺房細胞の樹立を行い、三次元培養による腺房細胞の可塑性モデルを作製した。しかし、腺房細胞と膵癌細胞及び膵星細胞との共培養系による局所浸潤モデルの作製は途上である。In vivoモデルでは、腺房細胞の可塑性に着目したAcinar atrophy誘導マウスモデルを作製し、局所浸潤との関連について解析を行い、Acinar atrophyによる膵実質内の間隙形成や間質浸潤による基質のリモデリングと膵癌局所浸潤との関連についての知見を見出した。ADMの遺伝子発現解析では、Acinar atrophyに伴うADMの遺伝子発現の変動とその特徴を明らかにしたが、Acinar atrophyを誘導する責任分子の同定には至っていない。癌微小環境のheterogeneityに着目した研究では、CD110の高発現と膵癌細胞の遊走・浸潤能との関連を明らかにし、さらにマウスモデルではCD110と血管外浸潤及び肝転移との関連を解析した。さらに、間質リモデリングと局所浸潤との関連に着目した研究では、膵癌周囲微小環境に存在する脂肪幹細胞が膵癌間質の供給源の一つであることを見出し、間質密度の改変により局所浸潤に寄与することを明らかにした。以上の研究成果より、膵癌局所浸潤におけるAcinar atrophyの誘導機序について、癌微小環境のheterogeneityに着目して多角的に新たな知見を見出しており、おおむね順調な進捗状況と思われる。
今後も膵癌切除組織より膵癌細胞、膵星細胞、さらに膵腺房細胞の樹立により腫瘍間及び腫瘍内のheterogeneityに着目し、Acinar atrophyや間質リモデリングを介した局所浸潤のメカニズムやその責任分子の同定についての解析を進める。現在、膵癌オルガノイドと膵星細胞との三次元共培養モデルを構築しており、それを応用することでin vitroでの局所浸潤モデルを作製し、さらなる局所浸潤の理解とその制御についての研究を進める。
研究計画はおおむね順調に進んでおり、有効に資金を使用できたため。次年度は主に研究用試薬、器材、抗体などに使用する予定である。
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