研究課題/領域番号 |
18K07943
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
嶋本 正弥 九州大学, 大学病院, 助教 (00457433)
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研究分担者 |
岩本 千佳 九州大学, 大学病院, 特任助教 (10752842)
鬼丸 学 九州大学, 医学研究院, 共同研究員 (80529876)
水元 一博 九州大学, 大学病院, 准教授 (90253418)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 膵癌 / 腺房萎縮 / ADM / 微小環境 / 局所浸潤 |
研究実績の概要 |
膵癌の膵実質内への局所浸潤が強い領域では、間質浸潤とともに膵癌周囲の膵腺房細胞の萎縮(Cancer-associated Acinar atrophy)が起きている。本研究では、膵癌微小環境を構成する細胞のheterogeneityに着目し、腺房萎縮を誘導する責任細胞の同定とその機序を解明することで、新たな膵癌局所浸潤の治療法の開発を目的とする。 これまでに、膵癌患者の手術検体より膵癌細胞、膵星細胞の樹立を多数行い、また膵癌自然発生マウス(KPC、KPCL)の膵腺房細胞から可塑性モデルを構築した。病理組織的解析では、膵癌膵実質浸潤部において間質浸潤や腺房萎縮にともないADM(Acinar-to-ductal metaplasia)様な形態変化が起きていることに着目し、腺房細胞の可塑性によって膵癌周囲の間質誘導及び膵癌局所進展が増強されることを見出した。異なった組織微小環境に由来するADMの遺伝子発現解析では、癌関連ADM、慢性膵炎関連ADM、正常膵孤発性ADMにおいてそれぞれ異なった遺伝子発現プロファイルを示すことを明らかにした。さらに、膵癌細胞のheterogeneityに着目した研究では、CD110を高発現する膵癌細胞集団で細胞遊走能・浸潤能が増強し、血管外浸潤及び高肝転移能との関連を明らかにした。 本年度はさらに局所浸潤部での微小環境との関連について研究を進め、膵へ誘導された骨髄由来細胞が浸潤を先導すること、局所浸潤部でのnecroptosisによって放出されたCXCL5が膵癌細胞の浸潤能の促進することなどを見出し、原著論文を含む複数の発表を行った。 今後は、これまでに明らかにした膵癌局所浸潤に関与する因子について、膵癌オルガノイドモデルやシングルセル解析を用いたさらなる詳細な解析を進め、有望な関連因子を標的として既承認薬および未承認薬における化合物スクリーニングを行い、新たな治療戦略の開発を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに膵癌の局所浸潤に関わる複数の微小環境因子をすでに同定しており、腺房萎縮についても遺伝子レベルの解析を含め、多くの新知見が得られている。また、論文や学会での発表も数多く行っており、進捗状況は順調と考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでに得られた知見を基に、最近当研究室で導入したシングルセル解析などを用いてさらに詳細な膵癌局所浸潤に関わる微小環境因子の解析・同定を進め、それらの因子を標的とした化合物スクリーニングなどを行って新たな治療戦略の開発を目指す。 また、癌研究においては実際のヒトの癌組織での病理学的評価や検証も重要なステップであるが、近年では切除可能な局所進行膵癌に対しても術前治療が積極的に行われるようになっており、実際のヒトの組織での局所浸潤部の評価・検証の機会が非常に少なくなってきているため、1件の手術標本から複数箇所のサンプルを回収したり、可能な場合は膵癌オルガノイドモデルやマウスモデルでの代用も行いながら、効率的な研究を心がける。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画は順調に進展しており、資金を有効に使用できたため。 次年度は研究用試薬・器材、受託解析等に使用する予定である。
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