研究課題/領域番号 |
18K07947
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
川上 賢太郎 札幌医科大学, 医学部, 研究員 (60758712)
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研究分担者 |
仲瀬 裕志 札幌医科大学, 医学部, 教授 (60362498)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 炎症性発癌 / サイトメガロウイルス |
研究実績の概要 |
本研究は潰瘍性大腸炎関連発癌機序におけるサイトメガロウィルス(以下CMV)の役割を解明することが研究目標である。そのために、(1)マウスCMV感染マウスを用いた新規炎症性大腸癌モデルを作製し、CMV感染が炎症性大腸癌発症ならびに進展におよぼす関与、(2)ヒト炎症性大腸癌検体を用いて、癌周辺組織におけるCMVの存在と癌の進展との関与について検討すること、この2点を本研究の行動目標としている。(1)についてはTCR-αノックアウトマウスの腫瘍形成群において種々の予備的検討を行っている。腫瘍形成群の死亡率は腫瘍非形成群よりも高い傾向にあり、腫瘍性病変におけるIL-4、IL-13、IFN-γ、IL-17、さらに炎症性発癌に重要な役割を果たすTNF-αおよびIL-6の発現をReal time-PCR法を用いて検討している。また、腫瘍形成群、腫瘍非形成群の腸管組織からDNAを抽出し、網羅的にCGHアレイ解析を行い癌抑制遺伝子等の発現を検討している。(2)については、共同研究施設からヒト手術標本を収集し、腫瘍性病変(dysplasiaを含む)ならびに非腫瘍性粘膜に対し免疫染色を付し、CMV再活性化の有無について検討を行い、免疫染色で検出可能なCMV再活性化は認められないという知見を得た。(1)についてはTCR-αノックアウトマウスの繁殖不良、ならびにMouse CMV(以下MCMV)投与後の早期死亡で研究進捗がやや遅れている。TCR-αノックアウトマウスの追加購入や、感染成立マウスの飼育環境改善を行い、進捗を改善させる方針である。また、申請時に計画した本年度の研究を予定通り実施する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
TCR-αノックアウトマウスの繁殖不良により、実験に必要なマウス数が十分に確保できなかったこと、またMCMV投与後の早期死亡が想定より多かったことが原因となり、実験進捗がやや遅れている。これを改善するため、今年度はTCR-αノックアウトマウスを追加購入し繁殖を推進すること、感染成立マウスの飼育環境(ケージ内引数、餌など)に留意することで対応する。また、野生型マウス (C57BL/6) にMCMVを投与後、AOM/DSS投与で炎症性発癌を惹起し、腫瘍形成、浸潤の程度について予備的検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
①MCMV感染マウスモデルを用いた発癌機構の解明:(A)腸管炎症および腫瘍形成について、CMV感染マウスおよCMV非感染マウス間で比較検討する。腸管組織および腫瘍性病変を利用し、炎症性発癌に関与しうる種々のサイトカインをReal time-PCR法を用いて検討する。(B)マウス腸管から上皮細胞を単離し、種々のサイトカインを添加することにより、CMV感染が上皮細胞増殖におよぼす影響を検討する。樹状細胞やマクロファージを単離しLPS刺激を行い、IL-12、IL-23、IL-18などを測定する。単離されたリンパ球をCD28+CD3抗体によって刺激し、培養上清中の種々のサイトカインを測定する。線維芽細胞を単離し、炎症性サイトカインで刺激を行い、線維芽細胞から産生される活性型TGF-βを測定し、CMV感染が繊維芽細胞に及ぼす影響を検討する。腸管からDNAを抽出し、網羅的CGHアレイ解析を行い癌抑制遺伝子等の発現を検討する。(C)マイクロアレイ解析による上皮系マーカーと間葉系マーカーの発現を比較検討する。加えて、組織標本において上皮系マーカー及び間葉系マーカーに対する 免疫染色を行い腫瘍先進部における上皮系マーカーと間葉系マーカーの発現の強弱を比較する。②ヒト炎症性大腸癌検体を用いたCMVと発癌の関連についての検討:ヒト炎症性大腸癌検体約30症例を用い、腫瘍性病変(dysplasiaを含む)、非腫瘍性粘膜に対しCMV抗体(Dako社)による免疫染色を付した。結果的に全例で、腫瘍性病変・非腫瘍性粘膜ともにCMV陽性細胞を認めなかった。ヒト炎症大腸癌検体において、免疫染色で特定可能なCMV再活性化は認められないという知見を得た。
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次年度使用額が生じた理由 |
7で記載した通り、TCR-αノックアウトマウスの繁殖効率が不良であったこと、早期死亡などで使用匹数が増加したことにより、研究進捗がやや遅れたことが要因である。本年度はTCR-αノックアウトマウスを追加購入し、8で記載した実験を遂行するとともに、野生型マウス (C57BL/6) に対する炎症性発癌による腫瘍形成や浸潤に関する検討も引き続き実施し、予算執行したい。
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