本年度は、reovirusおよびSTING agonist(ADU-S100)による腫瘍微小環境における、腫瘍免疫に関連する遺伝子発現について、デジタルオミクスアナライザーを用いてトランスクリプトーム解析を行った。腫瘍移植マウスは、これまでの研究と同様に、同種移植系大腸がんマウスモデル(BALB/cマウス、CT26細胞)を使用した。マウスの両側皮下に腫瘍を移植し(dual flank モデル)一方の腫瘍にのみ、reovirusおよびADU-S100を単独もしくは併用で投与した。薬剤の投与後、腫瘍を摘出し、mRNAを抽出した後に、nCounter Analysis Systemを用いて腫瘍免疫に関連する遺伝子発現を解析した。適応免疫応答、T 細胞機能、およびインターフェロン応答を含む免疫機能に関連する遺伝子クラスターは、ADU-S100 とreovirusの併用投与群の薬剤非投与側の腫瘍で発現が上昇していた。対照的に、reovirusもしくは、ADU-S100の単独投与群の薬剤非投与側の腫瘍では明らかな変化はみられなかった。さらに、レオウイルスと ADU-S100 の併用投与群の薬剤非投与側の腫瘍では、reovirusもしくは、ADU-S100単独投与群と比較して、細胞傷害性細胞と CD8 陽性細胞のスコアが上昇を示した。以上から、reovirusおよびSTING agonistの併用が、腫瘍免疫に関連する遺伝子クラスターの発現を増加させ、特に適応免疫応答、T細胞機能、およびインターフェロン応答に関連する遺伝子クラスターで、その作用が顕著であることが示された。これらの遺伝子群は、腫瘍の排除に必要な細胞傷害性T細胞の誘導に関係していると考えられ、これまでの実験結果に矛盾しないものであった。
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