申請者らは複数のESCC細胞株を用いて、CD24Low/CD44High細胞がESCCにおける癌幹細胞であることを報告してきた。ESCCにおいては上皮系癌細胞が上皮間葉移行(epithelial-mesenchymal transition: EMT)により間葉系の癌幹細胞(CD24Low/CD44High細胞)になり、このEMTのプロセスにおいてはTGF-β、Notch1、EGFRが重要な役割を担っている。これらの阻害剤を用いることでEMTが抑制され、CD24Low/CD44High細胞が減少することを報告した。EMTを抑制するTGF-β阻害剤、Notch1阻害剤、EGFR阻害剤は既存のCD24Low/CD44High癌幹細胞に対しては治療効果が無いことが問題であったが、FGFR/Erk経路がCD24Low/CD44High癌幹細胞の維持に重要であり、FGFR/Erk経路を阻害することで既存のCD24Low/CD44High癌幹細胞を抑制できることを見出した。癌幹細胞は抗癌剤、放射線治療に対する治療抵抗性に深く関与していることが多くの癌において報告されている。申請者らの実験系においてCD24Low/CD44High癌幹細胞が、実臨床で現在ESCC症例に使用されている抗癌剤であるCDDP、5FUに対して強い治療抵抗性を有していることを確認している。前述のFGFR/Erk経路を阻害することで腫瘍中のCD24Low/CD44High癌幹細胞を抑制し、抗癌剤に対する感受性は有意に回復したが、CD24Low/CD44High癌幹細胞の完全な除去、治療抵抗性の解除は未だに困難である。今後のESCC癌幹細胞を標的とした新たな治療戦略の開発が待たれている。
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