研究課題
肝内胆管癌は、発癌や進展の機序について分子生物学的な研究が進んでいない。また、肝内胆管癌モデルの報告は非常に少なく、現在のところ動物モデルは確立されていないため、申請者らは新規肝内胆管癌マウスモデル樹立を目指した研究を行っている。これまで、肥満および脂肪肝を呈するdb/dbマウスに対して、大腸癌誘発剤 azoxymethane(AOM)を投与する大腸発癌モデルを用いた研究を行ってきた中で、肝内の細胆管異形成および胆管細胞癌の所見が見出された。本年度は、db/dbマウスにAOMを投与して発生する肝内胆管病変に対して、胆管癌の発癌剤として既報にあるthioacetamide(TAA)の併用が及ぼす影響について解析した。また、野生型マウスの給餌誘発性肥満を背景とした脂肪肝において、同様に肝内胆管病変が発生するか検討した。さらに、糖尿病治療薬SGLT2阻害薬が胆管癌に及ぼす作用について、ヒト胆管癌細胞株を用いて実験を行った。AOM単独投与群に比べて、TAA併用群では病変数の増加がみられた。また、血清ALT値およびT-Bil値がTAA併用群で有意に高値であったほか、炎症性サイトカインであるTNF-alphaおよびIL-6のmRNA発現の解析から、肝における炎症の増悪が示唆された。これらの実験結果から、肝における慢性炎症が胆管の増殖性変化を促進し肝内胆管癌の発生に寄与する可能性が考えられた。高脂肪食給餌野生型マウスでは、通常食給餌群に比較して脂肪肝がみられたものの、肝内胆管病変の発生に関しては有意な差は認められなかった。ヒト胆管癌細胞株におけるSGLT2のタンパク質発現は数種類の細胞株で確認され、48時間の薬剤処理によって細胞増殖が抑制される傾向がみられた。胆管癌の増殖抑制に対して、SGLT2阻害薬が有用である可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、胆管癌の発癌剤として既報にあるthioacetamideの併用による作用、および野生型マウスに高脂肪食給餌で誘発した脂肪肝において、遺伝的肥満マウス(db/dbマウス)と同様にazoxymethane投与によって肝内胆管病変が発生するかを検討した。また、糖尿病治療薬SGLT阻害薬による肝内胆管癌への作用をヒト細胞株で行った。これらはおおむね実験計画通りである。
糖尿病治療薬SGLT阻害薬による肝内胆管癌の発癌抑制、および胆管癌細胞株への影響についてさらに検討し機序を解析する。また、もう一方のレチノイドシグナルを組織特異的に阻害したモデルにおける胆管発癌についてもさらに実験をすすめる。
来年度は最終年度であり、更なる詳細な実験を計画しており、令和元年度以上に費用が必要となると考えられ、次年度への繰り越しが生じた。 支出用途としては実験器具、試薬の購入費用、また成果発表のための学会参加費、旅費などを検討している。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 5件)
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