研究課題/領域番号 |
18K07969
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松浦 稔 京都大学, 医学研究科, 助教 (30402910)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 炎症性腸疾患 / 鉄動態 |
研究実績の概要 |
炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease;以下IBD)の病態生理にはさまざまな環境因子が関与する。中でも鉄は細菌の増殖および毒性維持に必須の因子であり、生体内での酸化ストレスの産生や腸内細菌への影響を介してIBDの病態に関与すると考えられてきた。一方、鉄代謝制御因子Hepcidinの発見により慢性炎症に伴う鉄代謝異常の分子メカニズムが明らかとなり、慢性炎症刺激がHepcidinを介して体内の鉄動態を変化させ、マクロファージの機能亢進につながることが報告されている。しかしIBDの慢性炎症に伴う鉄代謝異常やその病態への関与については不明である。そこで、腸内細菌の存在下に慢性腸炎が自然発症するIBD動物モデル(IL-10 KOマウス、TCR-alpha KOマウス)を用いて、1) 腸管炎症と各臓器における鉄の体内分布の経時的変化、2) 鉄代謝関連分子Hepcidinの発現変化について検討した。その結果、1) 野生型マウス(コントロール群)と比較して、IL-10KOおよびTCR-alpha KOマウスのいずれも8週齢で腸炎を発症し、以降、経時的に組織学的腸炎の進展を認めた。またコントロール群と比較しTCR-alpha KOマウスでは腸管組織における主にマクロファージから産生される炎症性サイトカイン(TNF-alpha、IL-12/23p40)のmRNA発現が有意に亢進していた。2)肝臓、脾臓、大腸における組織内鉄量と血清鉄濃度についてはTCR-alpha KOマウスとコントロー群の間に有意な差を認めなかった。3) TCR-alpha KOマウスの肝組織におけるHepcidinのmRNA発現はコントロール群と比べ有意に亢進し、腸炎の進展と伴に増加傾向を認めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度当初の研究計画では、腸内細菌によって慢性腸炎が誘導される代表的なIBD動物モデルであるIL-10KOマウスを用いて腸管炎症の進展に伴う生体内での鉄動態を検討する予定であった。しかし、当動物実験施設でのIL-10 KOマウスの交配後の出生数や出生後生存率が低く、研究継続に支障を来す恐れがあり、他の動物モデル(TCR-alpha KO)に一部変更して予定の検討を行っている。現在、IL-10KOマウスの系統維持に目途は立ってきたため、今後は両系統(異なる2つのstrain)を使って検討を行っていく。またマクロファージ細胞内の鉄量測定が必要と考え、各臓器からマクロファージの単離を試みているが安定せず、進捗が遅れている一因となっている。
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今後の研究の推進方策 |
1)各臓器におけるマクロファージに細胞内鉄量について 各臓器における組織内鉄量については有意な変化を認めなかったため、各臓器におけるマクロ―ファージに絞って細胞内鉄量を測定し、腸管炎症の進展に伴う鉄の体内動態の変化を検討する。また採取した各臓器(組織)内のマクロファージの活性化マーカーの発現やLPS刺激に対するサイトカイン産生能を測定し、マクロファージ活性化と細胞内鉄量との相関を検討する。 2)鉄の体内動態の変化と腸炎活動性ならびに酸化ストレスとの関連性 上記の如く解析した生体内のマクロファージにおける鉄の動態変化と各臓器における組織学的炎症度、組織lysateを用いたTBARS法による過酸化脂質(malondialdehyde)や新鮮凍結切片を用いたDihydroethidium染色によるsuperoxide産生を測定し、鉄動態の経時的変化と腸炎活動性や酸化ストレスとの関連性について検討する。 2)鉄代謝関連分子の発現と組織内局在の検討 IBD動物モデル(IL-10 KOおよびTCR-a KOマウス)と野生型マウスの各組織(腸管、肝臓、脾臓)における鉄代謝関連分子(鉄吸収:transferrin受容体、divalent metal transporter 1、鉄放出:FPN、鉄貯蔵:ferritin)の発現をWestern blottingと免疫染色を用いて経時的に比較検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた研究計画と比べ、使用した実験マウス数が少なかったこと、および解析に必要なサンプルデータが揃わず解析が遅れたために次年度使用額が生じた。また次年度の本研究遂行に必要とされる研究経費は、1)実験マウスの飼育・管理、2)各種抗体および試薬、に当てられる。 1) 実験マウスの飼育・管理に要する費用:安定した研究遂行のため、自然発症腸炎モデル(IL-10 KOおよびTCR-alpha KOマウス)については通常より多めの維持管理が必要となる。また、1回の実験あたり各群6-8匹で2群(計12-16匹/回)の実験マウスおよびその管理が必要と予測されるが、経時的な解析やex vivoでの検討が必要であり、これらの点においても実験マウスの確保が必要である。 2) 各種抗体および試薬:これまでと同様、病理組織学的解析やサイトカイン測定やFACS解析に必要な試薬・抗体、生体内の鉄代謝動態を検討するための試薬・キットなどが必要になる。
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