研究課題/領域番号 |
18K07970
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
西田 尚弘 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (50588118)
|
研究分担者 |
水島 恒和 大阪大学, 医学系研究科, 寄附講座教授 (00527707)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | がん遺伝子 |
研究実績の概要 |
がん免疫に深く関わるマイクロRNA同定のため、癌部と間質部それぞれの組織をlaser microdissection により分離し、それぞれからマイクロRNAを抽出し、これを正常部でのマイクロRNAと比較することで、がん間質において、がん進展に関わるマイクロRNAを同定することに成功した。また本年度は、間質においてがん免疫に関わる遺伝子候補を同定、その機能解析に取り組んでいる。近年注目されている複合癌免疫療法は、免疫治療に抗癌剤や分子標的治療薬を併用することで、免疫療法の感受性増加を目指すもので、世界中で数多くの治験が進行している。しかしながら、その多くは、免疫治療に抗癌作用 を有する既存薬を組みあわせたものが主流で、必ずしも作用メカニズムに裏打ちされたものが多いとは言えない。今回同定した遺伝子候補は、具体的には、癌細胞においてはPD-L1を始めとする免疫疲弊シグナルの増強や抗原提示の抑制、免疫細胞(細胞障害性T細胞や樹状細胞)では不活化や分化抑制、炎症性サイトカインの分泌抑制などに働くことが予想される。また癌細胞から分泌されるマイクロRNAは、レシピエントである宿主側の遺伝子発現変化を誘導し、免疫応答に大きな影響を与えることが知られているが、現在、本研究では、がん細胞から分泌されるマイクロRNAの網羅的なプロファイリングに取り組んでいる。今回明らかになりつつある結果は、我々が注目している分子が癌を排除しようとする免疫の抑制に深く関わっていることを示している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、がん免疫への重要なアプローチとして、がん免疫が活性化していることが分かっているMSI大腸癌に着目し、MSI大腸癌において、その発現が患者の予後に関わる遺伝子群の同定に成功している。MSI陽性大腸癌細胞株を用いてこれらの候補分子をノックダウンし、増殖や浸潤能を調べ、これらの機能解析を進めている。 またMSIの多くが含まれるBRAF V600E変異陽性大腸癌にも注目し、これに特異的な代謝遺伝子プロファイルを同定、BRAFV600E変異陽性大腸癌では、解糖系酵素の発現亢進がみられることを明らかにした。この中でも特に重要と考えられた治療標的に関して、MSI陽性の大腸癌細胞株においてその発現操作を行うことで、これらが癌の浸潤、増殖に果たす役割を明らかにした。さらに、これらの分子と腫瘍免疫の関係を調べたところ、これらの候補分子はがん免疫の抑制に重要な役割を果たす制御性T細胞の浸潤にも関わっていることが分かってきた。
|
今後の研究の推進方策 |
現在行なっている解糖系酵素群、マイクロRNAの癌悪性形質への関わりに関して、癌免疫の観点から、一層深くそのメカニズムを解明することを目指している。治療標的候補となる遺伝子の、ノックダウン細胞株、レンチウイルスによる強制発現細胞株を作成、細胞内での浸潤能など形質変化に関わるターゲットの同定、並びに細胞外に分泌されるサイトカインの変化、T細胞賦活化への影響を調へベている。候補マイクロRNA、ならびに遺伝子のがん微小環境における作用を明らかにするために、以上で同定された候補遺伝子に対し、各分子の発現変化による抗腫瘍効果を観察、また、これらの分子の発現操作によるPD1・PD-L1遺伝子の発現変化を明らかにする。さらに、臨床検体でのProof of Conceptの取得のために、臨床検体での各遺伝子候補の発現と、免疫治療感受性との関わりを明らかにする。特にMSI大腸癌は、がん免疫が活性化していることが知られているが、このMSI大腸癌において、がん進展に重要な役割を果たす遺伝子、マイクロRNAの同定を進める。さらに、大腸癌臨床検体を始めとする消化器癌の手術摘出サンプルまたはホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE)を用いての候補遺伝子の免疫組織学的染織を行い、各候補の発現と臨床病理学的因子の関連を明らかにすること、また予後との関係を明らかにし、これらの候補の予後予測因子としての重要性を明らかにすることを目標としている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究計画は昨年度と同様に、概ね順調に遂行されている。3年間の研究期間全体で最終的な目標を達成するため、各進捗状況に応じた、効率的な予算の使用を心がけている。 具体的な要因としては、一部の実験において、確証を得るための反復実験の回数が予定されていた状況よりも最小限に抑えることが可能であったため、当該年度 の使用経費を抑える事が可能であった。また、大幅なコストがかかる網羅的解析の一部を、次年度に行う予定となったため、一部の経費を次年度で使用する事が妥当と考えられた。
|