研究課題/領域番号 |
18K07971
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
石原 俊治 島根大学, 学術研究院医学・看護学系, 教授 (80263531)
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研究分担者 |
三島 義之 島根大学, 学術研究院医学・看護学系, 助教 (30397864)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 制御性B細胞 / ATP / クローン病 / 潰瘍性大腸炎 / IL-10 / 自然免疫 |
研究実績の概要 |
これまで私共は、炎症を抑える制御性B細胞(Breg)の機能不全が腸炎を増悪すること、さらにクローン病(CD)ではその機能が有意に減弱していることを報告してきた。しかし、慢性炎症に関わるBregの機能低下がどのような機序で誘導されるのかは不明である。近年、傷害組織で産生される細胞外アデノシン三リン酸(ATP)が、様々な炎症の病態に関わるとが示唆されている。この細胞外ATPの機能は細胞種や病態によって多彩であるが、Bregへの関与の報告はない。私共は、ATP受容体が制御性免疫細胞に高発現しており、ATP依存性 に炎症が増悪するという点に着目した。そして本研究においては「CDでは、細胞外ATPの 持続刺激に依存してBregの機能低下を誘発するメカニズムが存在し、その結果として腸炎が 増悪する」という仮説を検証する。本研究の成果によって、CDの新たな病態が明らかとなり、これまでと異なる視点からの診断法や治療法の開発に貢献できると考える。 現在は、「炎症粘膜局所で放出される細胞外ATPの持続暴露によってBregの機能が低下することを実験的に証明し、その象が腸炎増悪の原因になるかを検討すること」、さらに「CD患者だけでなく、潰瘍性大腸炎(UC)患者と健常部からの腸管B細胞を用いて比較検証することにより、ATP依存性の腸管Bregの機能 減弱がCDに特異的な現象かを明らかにすること」を目的として、In vitroおよびマウス腸炎モデルの作成によって研究を実施している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究期間の前半は「細胞外ATPの持続刺激によるBregの機能低下機構」についての実験を進めている。代表者の石原は、 研究全体の統括者として、in vitroにおける実験系、モデルマウス作成方法について、分担者の三島と入念に検討しながら研究を進めている。 初年度は、マウスモデルの作成、SCIDマウスとIL-10-KOマウスの購入、飼育、IL-10-KOマウスの繁殖などに時間を費やした。引き続き現在は、in vitroにおける実験を進めている。マウスの脾臓から磁気ビーズによってCD19陽性B細胞を分離培養し、種々の細菌抗原によって誘導されるIL-10について、培養系にATPを添加する実験をおこなってきた。この実験では、ATPの濃度に依存してCD19陽性B細胞からのIL-10産生が抑制されることが明らかとなった。このことは、ATPは性病性B細胞の炎症抑制効果を阻害する可能性を示唆するものであり、今後はマウスモデル実験での検証をおこなっていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
マウス実験はIL-10-KOマウスの繁殖が当初の計画通りに進まず、慢性腸炎モデルの樹立がやや遅れていたが、現在では樹立可能となった。本モデルは、SCIDマウスにIL-10-KOマウスのT細胞を移入し作成するが、現在では慢性的に大腸炎に炎症を誘発するモデル作成が可能となっている。さらに、ATP受容体であるP2X7の欠損マウスの購入が可能となり、このマウスの腸間膜リンパ節から分離したB細胞を慢性腸炎モデルに共移入し、腸炎の活動性の評価をおこなっていく。本実験では、B細胞におけるP2X7 発現の有無で腸炎の活動性が評価できることから、 慢性腸炎において、ATPがBregの機能低下を介して 腸炎が増悪する可能性を評価できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
SCIDマウスにIL-10-KOマウスのT細胞を移入し作成する慢性腸炎モデルについて、その樹立が成功したが、これまで購入・使用していた抗体や分子生物学的試薬などである程度代用できていた。一方、流通の停滞で入手が遅くなっていたATP受容体であるP2X7の欠損マウスの購入ができるようになった。今年度は、マウスモデルの実験を集中的におこなうべく、繰越しした予算も含めて実験動物、抗体分子生物学的試薬などに使用し成果につなげたい。
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