研究実績の概要 |
肝細胞での中性脂肪合成の亢進は脂肪肝、肝がんの発症リスクを高める。我々はC型慢性肝炎治療薬の一つであるリバビリンが中性脂肪合成を抑制することを以前見出した。本研究では、その機序に関わる転写因子C/EBPαに着目した。前年度までに、C/EBPαの下流因子としてリバビリンの中性脂肪合成抑制に最もリンクする遺伝子の一つとしてトリグリセリド合成酵素遺伝子GPAMを同定し、リバビリンによりC/EBPαタンパク質の分解が亢進、GPAMの発現量が減少することで細胞内の中性脂肪量が低下することを明らかにした。2, 3年度ではGPAMゲノム上のC/EBPα応答領域を同定することに取り組んだ。ChIP-Atlasなどのデータベースやレポーターアッセイ、ゲルシフトアッセイを駆使して、GPAM上流遠位にある2箇所のC/EBPα応答領域(E1とE2)にC/EBPαが結合し転写活性化することが分かった。また、C/EBPαがそれら配列に結合しクロマチン構造がオープンになることでGPAM遺伝子発現を増強することが示唆された。さらに、E1あるいはE2ゲノム領域を欠失したHuH-7肝がん細胞由来クローン細胞をゲノム編集により作成したが、各領域を欠損してもC/EBPαに対する応答性を保持していた。 また、C/EBPαタンパク質の分解を制御するキナーゼの同定を試みた。C/EBPαのタンパク質の量を簡易的にモニタリングできる細胞アッセイ系(当研究室で作成)を用いた。Kinase screening libraryを用いてスクリーニングを行ったところ、mTOR阻害剤においてC/EBPαタンパク質の量の低下が観察され、mTORがC/EBPαタンパク質の量の維持に寄与していることが示唆された。 これら結果は、中性脂肪合成が亢進した肝がんなどの発症メカニズムや予防・治療法の開発において有用な知見となりうる。
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