研究課題/領域番号 |
18K07974
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
西川 潤 山口大学, 大学院医学系研究科, 教授 (00379950)
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研究分担者 |
末廣 寛 山口大学, 大学院医学系研究科, 准教授 (40290978)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | EBウイルス / 胃癌 / PD-L1 / 免疫チェックポイント阻害剤 |
研究実績の概要 |
EBウイルス関連胃癌細胞株を用い、免疫チェックポイント分子PD-L1の発現を検討した。3つの細胞株でいずれも高発現しており、IFN-g投与によりさらに増強した。PD-L1が高発現した胃癌細胞株とPD-1が発現したT細胞株を共培養するとT細胞株は著明にgrowth arrestを起こした。また、抗PD-L1抗体の投与により、このgrowth arrestが部分的に解除されることを見出した。EBウイルス関連胃癌は免疫チェックポイント分子阻害剤が効きやすいのではないか、という臨床的な予測を実験的に証明できた。本成果はすでにGastric cancer誌に論文が受理された。 また、PD-L1の過剰発現の機序についての検討を行った。文献的にPD-L1 3'UTRの異常が報告されている。さらに胃癌・肺癌において、PD-L1 3'UTRに存在するmiRNAの結合するseed lesionのSNPが報告されている。従って、我々はこの部位のsequenceを行った。EBウイルス胃癌細胞株では、いずれも3'UTRにSNPが認められた。これによりPD-L1の発現を抑制するmiRNAが結合できずに高発現している機序が考えられた。 また、PD-L1はIFN-g に反応して発現が増強する遺伝子であるので、IFN-gに関わる経路について検討した.IFN-gの下流に存在するJAK2,PI3K,mTORinhibitorを用いた検討によって、PD-L1の発現は抑制された。PD-L1の発現増強にはIFN-gからの刺激がもっとも重要であると考えられる。 研究はこれまでのin vitroの検討から、臨床検体を用いたPD-L1の発現や実際に免疫チェックポイント阻害剤で治療されたEBウイルス関連胃癌患者の予後などに発展させていくために準備を進めている。臨床検体を用いる研究については、当施設の倫理審査委員会の審査を受けており、開始が可能な状態になっている。実際の臨床データと今年度明らかにした基礎データとの整合性を検証していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究課題を開始する以前に、EBウイルス関連胃癌細胞においては、PD-L1が高発現していることをフローサイトメーターで確認していた。それを発展する形で、IFN-gによる処理、T細胞株との共培養実験に発展させることができた。徐々に実際の臨床データとして、免疫チェックポイント阻害剤の効果がEBウイルス関連胃癌とMSI-Hの胃癌で効きやすいと報告され始めている。我々の結果はこれを裏付ける結果として大変重要である。免疫チェックポイント分子阻害剤は大変高価であり、今後、併用療法も検討されているので、効果の表れやすい胃癌を明らかにすることは非常に重要である。検討開始1年以内でGastric cancer誌に掲載されており、今後は我々の治療症例におけるEBウイルス関連胃癌の奏効率などにつなげていきたい。 PDーL1の高発現は免疫チェックポイント阻害剤のresponderに認められる所見であるが、高発現する機序については十分に解明されていなかった。PD-L1 3'UTRの異常を報告した先行研究を参考にmiRNAのseed lesionにおけるSNP解析もすでに報告した。現存するEBウイルス関連胃癌細胞株3株ではすべて、このSNPが証明された。今後、臨床検体において、このSNPの重要性を検討することも可能である。
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今後の研究の推進方策 |
胃癌に対する免疫チェックポイント分子阻害剤の適切かつ有効な応用を実現するため、今後は自験例での免疫チェックポイント阻害剤投与胃癌症例の経過を検討する。これまで化学療法の適応になる切除不能・再発胃癌におけるEBウイルス感染の検索はあまりなされていない。内視鏡的生検組織からのEBウイルス関連胃癌の診断にも取り組み、化学療法前にEBウイルス関連胃癌を診断するシステムを確立したい。 免疫チェックポイント阻害剤同士やその他の抗がん剤との併用療法が検討されている。EBウイルス関連胃癌の発生機序にはDNAのメチル化が関与していることを過去に報告しており、脱メチル化剤との併用療法について検討を行いたい。我々の検討では、脱メチル化剤の投与によりがん抑制遺伝子の発現が回復するとともに、細胞障害性T細胞の標的になるような癌抗原の発現が上昇することを報告している。脱メチル化剤により、癌抗原がさらに発現すると浸潤リンパ球のさらなる増加を誘導し、抑制系の免疫チェックポイント分子、PD-1やPD-L1を抑えることでもっとも効果的なEBウイルス関連胃癌治療が提案できるかもしれないと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に研究室の人員の移動などがあり、計画的な使用が出来なかったため。未使用額については、次年度の消耗品代として使用する予定である。
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