肥満人口の増加にともない非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease; NAFLD)及びNAFLDが進行した非アルコール性脂肪性肝炎 (Non-alcoholic steatohepatitis; NASH) が増加傾向にある。NASHは肝硬変・肝癌への要因となるため、NAFLD/NASHの予防法や診断法の確立が急務である。 NAFLDは肝細胞に過度な中性脂肪(TG)が蓄積した状態であり、TGは脂肪滴の内部に包まれている。脂肪滴表面の脂質一重膜はホスファチジルコリン(PC) がその大部分を占める。そこで、肝細胞における脂肪滴形成機構の解明を目指し、PCを脂質膜間で転移させる活性を有するSTARD10 (Steroidogenic acute regulatory protein-related lipid transfer domain containing 10)とLands’ 経路でPC産生を担うリゾPCアシル基転移酵素であるLPCAT1 (lysophosphatidylcholine acyltransferase 1)に着目した。株化細胞にLPCAT1を過剰発現させると比較的小さい脂肪滴の割合が増加し、STARD10及びLPCAT1の共発現で大きい脂肪滴の割合が増加したことからSTARD10とLPCAT1とが協調して脂肪滴のsurface-to-volume ratioを調節し、脂肪滴形成を促進すると考えられた。Stard10及びLpcat1の遺伝子欠損マウスでは肝細胞に脂肪滴が蓄積しにくい傾向があったがアデノウイルスベクターを用いLpcat1遺伝子を過剰発現させると肝細胞に脂肪滴が増加した。そのため、LPCAT1とSTARD10の脂肪滴形成促進機構の存在が示唆された。さらに研究を発展されるため、研究室レベルで脂質の濃度を測定するシステムの確立を試みた。栄養生化学の観点からの本研究の発展が期待される。
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