研究課題/領域番号 |
18K07987
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
溝口 恵美子 久留米大学, 医学部, 准教授 (40782157)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 炎症性腸疾患 / キサンチン誘導体 / CHI3L1 / 核内移行 / サイクリン結合部位 / 上皮異形成 |
研究実績の概要 |
炎症性腸疾患(IBD)における慢性腸炎からの腸上皮の異形成化および癌化にキチナーゼ3様タンパク1型(CHI3L1)が深く関与していることが知られている。我々の研究グループは、キサンチン誘導体の一つであるカフェインがCHI3L1の発現および活性化を抑制することを発見している。しかし、カフェインは心血管系や睡眠に対する副作用、および血中有効濃度と中毒濃度との近似性の問題などがあることから、より副作用が少ないキサンチン誘導体であるペントキシリフィン(PTXN)への代替、もしくは低濃度のカフェインとPTXNとの組み合わせ投与の効果が期待されている。 本研究は、キサンチン誘導体であるカフェインとPTXNを単剤投与・併用することによるIBD関連性癌化の抑制効果およびその作用機序を検証することを目的としている。現在、ヒト上皮異形成時にCHI3L1が核内移行する事実を認めており、更にキサンチン誘導体とCHI3L1との推測上での結合部位を明らかにしている。令和元年度は、この結合部位の遺伝子をCRISPR/Cas9の方法で編集したヒト大腸癌細胞株SW480ノックアウト安定発現細胞株を樹立した。更に、キサンチン誘導体の発癌抑制効果を検証するため、in vivo 発癌モデルとしてTGFbeta阻害薬であるAzoxymethane (AOM)の6回腹腔内投与系を用いたが、本動物センター環境下では大腸上皮細胞に軽度異形成を一部のマウス(C57Bl/6野生型)に認めただけで発癌には至らなかった。これを改善すべく、令和2年度は、AOMと低濃度(2~2.5%)デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)併用によってC57Bl/6 野生型マウスとCHI3L1ノックアウトマウスを発癌させ、カフェインとPTXNを単剤投与・併用することによる大腸癌発症に対する効果を検証する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①大腸がん細胞株をTNFalphaで刺激すると、刺激前には核周辺および細胞質に局在していたCHI3L1が、刺激後は上皮異形成で見られるように核内に移行していた。このことから、CHI3L1内にNuclear Localization Sequence (NLS)が存在するかドメイン検索を施行した結果、144~171番目にNLSが存在した。更に、このNLS最後尾にCyclin結合配列(KQLLL)が存在し、その近傍に2箇所のCyclin Dependent Kinase (CDK)リン酸化部位(SPXXR配列)があることを見出した。このCyclin結合部位の生物学的重要性を検証するため、CRISPR/Cas9の手法を用いて、ヒト大腸癌株SW480細胞のKQLLL配列を完全にノックアウトした(KQLLL-KO)安定発現細胞株を樹立した。野生株とKQLLL-KO株とでは、炎症性サイトカインであるTNFalpha刺激後に、CHI3L1およびp53(CHI3L1と直接結合していることが最近報告されているがん抑制蛋白)の細胞内局在に明らかな違いを認めた。
②マウス慢性炎症からの癌化モデルとして、Azoxymethane (AOM)をC57Bl/6 野生型マウスに6回腹腔内投与した。この系において、AOM投与前後の合計9回、カフェイン(5mM), PTXN (100mM) または滅菌水を腹腔内投与したところ、PTXN投与群において慢性炎症からの大腸上皮早期異形成化が抑制傾向にあった。
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今後の研究の推進方策 |
①令和2年度は、SW480-KO安定発現細胞株とSW480野生株とを炎症性サイトカインTNFalpha刺激前後で様々な方法(e.g., 蛍光免疫染色法、免疫沈降法、マイクロアレイ法など)を用いて比較検討を行い、CHI3L1の核内移行に関与する分子を同定する予定である。また、キサンチン誘導体とCHI3L1の推測上の結合部位であるKQLLLは、CHI3L1のNuclear Localization Sequence再尾部に位置することから、キサンチン誘導体がこの部位に結合することによってCHI3L1の細胞質から核内への移行を阻止し、結果的にCHI3L1の活性化を抑制している可能性を証明する予定である。興味深いことに、今回同定したKQLLL部位の近傍には2カ所のCyclin Dependent Kinase (CDK)リン酸化部位(SPXXR配列)を有することから、上記2種類のSW480細胞株を遺伝子的に再編集することで、 KQLLL部位の欠如がCDKリン酸化に与える影響を比較検討する予定である。
②In vivo 発癌モデルとして令和元年度に用いたAzoxymethane (AOM)のみ6回腹腔内投与系では上皮細胞軽度異形成を一部C57BL/6マウスに認めただけであった。この点を改善すべく、令和2年度は、AOMと低濃度(2~2.5%)デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)による発癌をC57Bl/6 野生型 マウスとCHI3L1ノックアウトマウスをに対して誘導し、カフェインのみ、PTXNのみ、および両者併用後の大腸癌発症に対する効果を検証する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度旅費未使用分(100,000円)と令和2年度旅費(95250円)を合わせてブラウン大学との共同研究のための渡航費に充てる予定である。
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