研究課題/領域番号 |
18K07990
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研究機関 | 地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
中藤 学 地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所, 「腸内細菌叢」プロジェクト, サブリーダー (20584535)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 腸管上皮細胞 / TROP2 / EpCAM / 免疫細胞 |
研究実績の概要 |
本年度は腸管上皮細胞における二つの接着分子Epithelial cell adhesion molecule (EpCAM, TROP1)および相同分子であるTROP2によって制御されている分子群及び経路を明らかにするために遺伝子改変マウス組織から腸管上皮細胞を用いて発現分子の網羅的な解析を実施する予定であった。しかしながら、次項目の現在までの進捗状況で記載する通り、解析を実施するために十分な遺伝子改変マウスを確保することができなかった。そのため、過去に実施した腸管組織全体を用いたデータの再解析を実施した。これまでは発現量を基準にし、変動の大きい分子の探索を中心に実施していたが、本年度の解析では転写因子、接着分子、膜タンパク質に焦点をあてた解析を行った。その結果、EpCAMとTROP2により制御される可能性が示唆される新たな分子を見出すことができた。 全身のEpCAMを欠損したマウスに腸管上皮細胞特異的にマウスTROP2を発現するマウス(以下T2Rマウスとする)は腸管上皮細胞において免疫関連分子の発現が低下している。加えて、腸管も野生型やコントロールマウスと比べると腸管が肥厚しており、腸管上皮下の粘膜固有層において免疫細胞が増加している可能性が示唆された。そこで各マウスの腸管組織から免疫細胞を調整し、総細胞数および細胞構成の変化を検討した。その結果、T2Rマウスは比較対照群のマウスに比べ、総細胞数が増加していたが、T細胞、B細胞、樹状細胞の構成には大きな変化がなかった。一方で、興味深いことにEpCAM陽性の免疫細胞が腸管粘膜固有層に存在することを新たに見出した。このEpCAMを発現している免疫細胞を特定するために様々な免疫細胞マーカーを用いて検討を行ったが、どの免疫細胞がEpCAMを発現するのかの特定には至らなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
要因は不明ではあるが、飼育環境の変化の影響により、使用する遺伝子改変マウスの繁殖率の低下がみられた。そのため、研究初期に導入予定であった遺伝子改変マウスの個体数も減少してしまった。交配による個体数拡大が困難であったため、本年度実施予定であった遺伝子改変マウスを用いた腸管上皮細胞発現分子、腸内細菌叢解析、代謝物の網羅的解析を実施することができなかった。 そこで網羅的発現解析に必要十分な個体数を得るために、本マウスの凍結精子からの個体復元は初の試みであり、個体復元率は未知であったが、遺伝子改変マウスの凍結精子を導入し、再度個体の復元を実施を試みた。実際に、本マウスの凍結精子を用いた体外受精を実施したところ、繁殖率の低下と同様に精子の運動率が低く、目的の表現型を持つマウスを得ることはできたが十分な個体数を得ることができなかった。そのため、体外受精を複数回繰り返すことにより、網羅的解析を実施するために必要なマウスを確保するための準備できた。加えて、飼育方法に工夫を施すことで、安定的にマウスを維持できる環境整備も行なった。これらの取り組みにより、次年度以降は安定的にマウス個体数を確保でき本年度実施できなかった課題に取り組むことが可能となった。 マウス個体数の拡大に伴う研究の遅延の影響を減らすために、来年度の実施予定の研究計画に向けた予備検討を行った。本年度、繁殖に使用できなかった遺伝子改変マウスを用いて、腸管内に存在する免疫細胞数および構成をフローサイトメータにより解析した。網羅的解析に用いる試料に関しては、比較対照である野生型マウスの組織を採取し、発現分子解析、腸内細菌叢解析、代謝物解析に必要な試料の調整を行なった。
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今後の研究の推進方策 |
EpCAMおよびTROP2に共通する機能、異なる機能を明らかにするため、本年度実施することができなかった遺伝子改変マウスを用いた発現分子の網羅的解析を最優先で行う。各マウスより腸管上皮細胞を単離し、RNA-seqを用いた発現解析を実施する。本解析から腸管上皮細胞で特徴的にEpCAMもしくはTROP2に依存して発現が変動する分子群、遺伝子を見出す。その後、絞り込まれた因子と両分子が相互作用するかを共免疫沈降方により検証を行う。本解析によりEpCAM 、TROP2それぞれの恒常時において調整を受ける新規分子経路を見出す。 T2Rマウスでは免疫関連分子の発現が低下おり、その要因として腸内細菌接着受容体もしくは腸内細菌叢由来のシグナル分子受容体、腸内細菌叢の構成の変化による代謝産物の変化など様々な可能性が考えられる。そこで、便試料を用いた、細菌の16S rRNA遺伝子の網羅的解析や質量分析器を用いた代謝物質の解析を行う。腸内細菌の腸管上皮細胞への接着も腸管上皮細胞の発現分子を変化させる要因となる。そこでT2Rマウスでの腸管上皮細胞への腸内細菌の接着を検討するため腸管組織片と細菌検出用の蛍光プローブを用いた蛍光in situ ハイブリダイゼーションを実施する。これらの結果より、T2Rマウスにおける免疫関連分子の発現低下は宿主側、腸内細菌側のどちらの因子が関与しているかを明らかにする。 本年度見出した、腸管粘膜固有層に存在するEpCAM陽性免疫細胞の報告はこれまでほとんどなく、腸管内における新たな免疫細胞の可能性もある。そこでフローサイトメーターによる細胞分取によりEpCAM陽性免疫細胞のみを回収する。回収した細胞の遺伝子発現解析を実施することにより細胞種の特定を試みる。
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