H30年度は小腸潰瘍発生メカニズムの検討のためにバルーン内視鏡を施行した症例よりクローン病2例、薬剤性小腸潰瘍1例、小腸癌1例よりオルガノイドを作成した。小腸癌由来のオルガノイドは他疾患のオルガノイドより有意に細胞増殖能の更新が見られた。また小腸癌由来のオルガノイドは通常の培養条件よりEGFを除いても増殖可能でありEGF-Kras-MAPKシグナルの活性化が示唆された。マウス正常小腸細胞からオルガノイドを作成し、炎症細胞との共培養におけるマウス小腸上皮細胞の変化を検討した。骨髄由来樹状細胞とオルガノイドの共培養によってオルガノイドの形態異常とUEA1陽性杯細胞の減少がみられ、樹状細胞が小腸上皮細胞の正常分化を誘導することが明らかになった。 H31年度は小腸上皮細胞オルガノイドと樹状細胞共培養系を用いて小腸上皮分化障害機序を解析した。迷走神経刺激物質であるnicotineの影響を検討した。このオルガノイドの分化障害はnicotine刺激によって減弱した。また樹状細胞特異的、またオルガノイド(腸上皮)特異的にnicotine受容体であるα7nACh受容体をノックアウトしたところ、とくに樹状細胞特異的ノックアウトでnicotine刺激の効果がほぼ消失した。樹状細胞α7nACh受容体がオルガノイドの分化異常誘導に関与していると考えられた。 R02年度は樹状細胞特異的α7nAChRノックアウトマウスを用いて腸炎における役割を解析した。樹状細胞特異的α7nAChR-恒常的IL10ノックアウトマウスはコントロールIL10ノックアウトマウスより腸炎の悪化、炎症性サイトカインの増加、免疫染色でUEA1陽性上皮細胞の減少がみられた。すなわち腸管における樹状細胞α7nAChRを介した上皮分化促進機能が炎症の抑制に関連している可能性が明らかになった。
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