研究課題
近年開発途上のリキッドバイオプシーで個別化医療を目指すためには網羅的な遺伝子検索が必要となるが、次世代シークエンス(NGS)はシークエンスエラーによるノイズにより真の変異を同定しがたい欠点が存在する。今回、高感度かつ正確なシークエンスが可能なデジタル次世代シークエンス(dNGS)を用い、膵癌の個別化医療を目指したリキッドバイオプシーの可能性を模索した。EUS-FNA検体の網羅的遺伝子解析施行済みの膵癌58症例のうち、KRASメジャー変異(G12D, G12V,G12R)を有していた45症例の血漿抽出cfDNAを対象とした。検討1: dPCRによるKRAS変異検出率を検討した。検討2: dNGSによる癌関連52遺伝子の網羅的解析を施行した。結果1: 平均2.6mlの血漿から164±117ngのcfDNAが抽出可能であった。dPCRでのKRAS変異検出率は、VFのcut-offを>0%とした場合42例(93%)、>0.5%とした場合35例(78%)でStageによる検出能に差は見られなかった。結果2: 25症例のcfDNAよりdNGSを施行した。dPCRと同じKRAS変異は11例(44%)で検出可能であり、TP53変異を7症例(28%)で検出した。また、copy number異常をCCND2(1例), FGFR1(1例), MYC(2例)に認め、さらに同一症例の進行期のcfDNA7例中3例でCCND3,CDK4, MYCに新たなcopy number異常を認めた。cfDNAのdPCR解析では極めて高感度な変異検出が可能であった。網羅性と正確性を両立したdNGSでは検出感度が劣るものの、治療標的となりうる遺伝子変異や増幅を検出することが可能であり、将来の個別化医療に有用かつ低侵襲なモダリティーになると考える。
2: おおむね順調に進展している
研究手法として、血液サンプルからデジタル次世代シークエンス(分子バーコード併用次世代シークエンス)を行うこと自体は初年度に達成できた。また、解析において従来の次世代シークエンス法とデジタル次世代シークエンスの比較を行い、感度の点においては課題が残るものの特異度は極めて高いという知見を得ることができた。この点を踏まえ、今後は様々な症例からのデジタル次世代シークエンスを行い臨床的有用性を評価していく予定。実際の成果としては、膵癌患者血漿32サンプルのデジタル次世代シークエンスを行い、何らかの遺伝子異常を53%のサンプルから、またKRAS変異を44%のサンプルから検出することができた。
デジタル次世代シークエンスにより従来問題となっていたシークエンスエラーを大幅に回避できることがわかり、今後は臨床への応用を見据えながら研究を遂行していく。具体的には、①症例数を増やし解析を行うこと、②経時的に採取した検体を用いて患者の状態をモニタリングし、治療のタイミングを見計らう。③既存薬以外の薬剤が使用できる可能性について、シークエンスする標的を選択する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件)
Pancreas
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