研究課題/領域番号 |
18K08001
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研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
伊藤 昌彦 浜松医科大学, 医学部, 助教 (50385423)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | B型肝炎ウイルス / HBV cccDNA / cccDNA結合タンパク質 / HBV複製 / SET |
研究実績の概要 |
慢性B型肝炎感染において、HBVウイルスゲノムは安定的なエピソーマルDNA(HBV cccDNA)として肝細胞核内に潜伏している。この潜伏維持状態は終生つづき、免疫抑制剤・抗がん剤などをきっかけに、オカルトHBV感染やde novo急性B型肝炎など再活性を引き起こす。HBV cccDNAは宿主のヒストンタンパクによりクロマチン様構造を形成し、cccDNAの鋳型となるpregenomic RNAやウイルスタンパク質をコードするRNAの転写はヒストンのアセチル化やメチル化などエピジェネティックな制御を受けていることが知られている。しかしながら、細胞周期依存的な複製機構やその複製起点はHBVゲノムには存在しておらず、細胞分裂後の娘細胞にcccDNAが受け継がれ、長期に亘りコピー数が維持される機構はまったく分かっていない。 申請者は、cccDNAと宿主タンパク質をクロスリンクしたのち、ショ糖密度勾配によって分画することで、いくつかのcccDNA結合分子を同定に成功した。このうちSET遺伝子のノックダウンにより、cccDNAコピー数が高値で維持されることを見出した。そこで本研究では、SETによるcccDNAの維持制御機構を明らかにすることによりHBV cccDNAの核内潜伏メカニズムを解明することを目的として研究を開始した。 本年度は、HBV複製におけるSETの機能をより詳細にするために、HepG2-NTCP細胞株由来のSETノックアウト細胞株を樹立し、SETがpgRNA、cccDNAレベルを抑制していることを明らかにした。また、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤TSAや1.3xHBVプラスミドを用いた実験から、SETによるHBV複製抑制にcccDNAのヒストン修飾が関連していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は初めに、SET過剰発現によるHBV複製への影響を調べた。SET発現プラスミドをあらかじめトランスフェクションした細胞にHBVを感染させた結果、pgRNAとcccDNAレベルはわずかに亢進するのみでその効果は限定的であった。pregenomic promoterレポーターベクターを用いたpgRNA転写誘導活性も同様にわずかなものであった。次にHBV複製におけるSETの機能をより詳細にするために、CRISPR-Cas9システムを用いてHepG2-NTCP由来のSETノックアウト細胞株を樹立した。樹立した細胞株にHBVを感染させた結果、pgRNA、cccDNAレベルの顕著な亢進が認められた。一方で、HBV感染はSET mRNA, タンパク質の発現に影響を与えないことを明らかにした。そこでSETによるHBV複製抑制のメカニズムを明らかにするための実験を行った。SETは脱リン酸化酵素PP2Aの活性を阻害することが報告されているが、PP2A阻害剤はSETノックアウト細胞株におけるpgRNAレベルの亢進を抑制することができなかった。またSETはヒストンアセチル化を抑制することが報告されている。ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤TSAはpgRNA、 cccDNAレベルを亢進させることが分かった。SETノックアウト細胞株におけるHBVの発現亢進は1.3xHBVプラスミドのトランスフェクションでは起きないことを明らかにした。これまでの結果から、HBV感染によって形成されたcccDNA特異的なヒストン修飾(アセチル化)にSETが関与し、HBV複製を抑制しているものと考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、 HBV複製抑制に関連するSET遺伝子内ドメインの同定するために、SETノックアウト細胞株を用いて、SETのドメイン欠失体による回復実験を行う。また核内でSETがcccDNAと共局在しているかを免疫染色法およびCASFISHによって明らかにする。SETとcccDNAとの結合はChIPアッセイによっても解析を試みる。さらにHBV複製抑制のメカニズムを詳細にするために、 FLAGタグを融合したSETタンパク質を免疫沈降しSETと相互作用する宿主タンパク質を質量分析法により同定する。SETと同定タンパク質やHBVコアタンパク質との相互作用をco-IPによって明らかにする。
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