研究課題
HBVウイルスゲノムは安定的なエピソーマルDNA(cccDNA)として肝細胞核内に潜伏感染する。この潜伏維持状態は終生つづき、免疫抑制剤・抗がん剤などをきっかけに、オカルトHBV感染やde novo急性B型肝炎など再活性を引き起こす。cccDNAは宿主のヒストンタンパクによりクロマチン様構造を形成し、cccDNAの鋳型となるpregenomic RNAやウイルスタンパク質をコードするRNAの転写はヒストンのアセチル化やメチル化などエピジェネティックな制御を受けていることが知られている。しかしながら、細胞周期依存的な複製機構や複製起点はHBVゲノムには存在しておらず、細胞分裂後の娘細胞にcccDNAが受け継がれ、長期に亘りコピー数が維持される機構はまったく分かっていない。これまで申請者は、cccDNAと宿主タンパク質をクロスリンク、ショ糖密度勾配により分画することで、cccDNA 結合タンパク質としてSETを同定した。SETのノックダウン、ノックアウト細胞ではpgRNAレベルやcccDNA複製を亢進することから、SETがHBV複製を抑制していることが示唆された。本年度は、二本鎖DNA修復に関連するヒストンタンパク質H2AXがSETと結合すること、H2AXのノックダウンによりcccDNA形成が抑制されること、SETの発現抑制によりdslDNAの修復によるcccDNA形成が亢進することを明らかにした。以上の結果は、通常時はSETとH2AXがdslDNAの末端に結合することで抑制されている修復が、SETの発現低下によってH2AXを介した相同組換え修復が活性化することでcccDNA形成を促進することを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、IP-MSによりSETタンパク質と結合するタンパク質の網羅的な解析を行った。最もスコアの高い同定タンパク質は、二本鎖DNA切断(DSB)の修復に関連するヒストンH2AXであった。H2AXとSETの結合は免疫沈降によっても確かめられ、ともにcccDNAにリクルートすることをChIPアッセイによって明らかにした。H2AXのノックダウンはpgRNAやcccDNA量を低下させた。またHepAD38.7細胞を用いたDOX誘導によるHBV発現系においてSETノックダウンはcccDNA形成を亢進させる一方で、H2AXノックダウンはcccDNA形成を抑制した。H2AXはDSB修復に関わることから、HBVのdouble strand linear(dsl)DNAの修復を制御していることが考えられた。そこで、dslDNAをトランスフェクションし、その修復により形成されたcircular DNAのジャンクション配列を調べた。SETノックアウトやノックダウンはintactなcccDNAとなる相同組換えの割合が増える一方で、過剰発現では相同組換えが起こらず末端から離れた位置でのAlternative end joiningの割合が増加した。これまでの結果から、SETはdslDNAのクロマチン構造を抑制的な状態に変化させ、cccDNA形成を阻害していることが示唆された。
来年度は、SETとH2AXの結合部位を明らかにするため、各々の変異体を用いた解析を行う。またHBV感染細胞核内において、SETとcccDNAの共局在を免疫染色法およびCASFISHによって明らかにする。HBVの再活性化とSETタンパク質発現やプロモーター活性の変動が関連しているかを明らかにするための実験を行う。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件)
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