研究課題
初年度に引き続き、(i) B型肝炎ウイルス(HBV)の生化学的性状に関して、分泌型ホスホリパーゼA2 (sPLA2)のHBV阻害作用について検討した。PLA2はリン脂質を分解し、ウイルスのエンベロープを傷害する。D型肝炎ウイルス(HDV)は欠陥ウイルスであり、ヘルパーウイルスとして同時に感染しているHBVのエンベロープを借用する。従って、HBVとHDVは同じエンベロープを有していると考えられる。そこで、本sPLA2のHDV阻害作用について、HBVやC型肝炎ウイルス(HCV)と比較解析を行った。その結果、本sPLA2が著しく強いHBV阻害作用及びHCV阻害作用(IC50 = 0.25 or 0.04 ng/ml)を示すのに対して、HDV阻害作用は100 ng/mlの高濃度においても全く認められなかった。この結果より、本sPLA2のHBV阻害作用はウイルスエンベロープへの直接傷害を介した吸着阻害によるものではないと推測された。また、本sPLA2のHBV阻害作用は標的細胞への侵入開始後60分以内に強く認められること、及び、本sPLA2はHBV逆転写酵素と類似のレトロウイルス逆転写酵素の活性を全く阻害しないことも実験的に明らかにした。これらの成績より、本sPLA2はHBV粒子の侵入・脱殻の過程を阻害していると推察された。次いで、(ii) HBV感染細胞の細胞生物学的性状に関して、小胞体(ER)機能に重要な役割を果たしているSEC24アイソフォーム及び多胞体(MVB) 機能に重要な役割を果たしているATG5やTSG101を、それぞれ特異的siRNAでノックダウンした細胞から分泌されるHBV粒子の量を対照細胞と比較解析したが、いずれの細胞でも有意な抑制効果は認められなかった。
2: おおむね順調に進展している
HBV粒子(Dane粒子)の感染性に及ぼす本sPLA2の阻害作用を、HBVと同じエンベロープを持つと考えられるHDV粒子と比較し、両者の明確な違いを明らかにすることができた。一方、ER-Golgi系分泌経路に重要な役割を果たしているSEC24アイソフォーム及びMVB機能に重要な役割を果たしているATG5やTSG101のノックダウン実験についてはさらなる検討が必要であると考えられた。
ER-Golgi系分泌経路に重要な役割を果たしているSEC24アイソフォームの特異的siRNAによるノックダウン実験や、MVB機能に重要な役割を果たしているATG5やTSG101の特異的siRNAによるノックダウン実験、及びU18666AなどによるMVB阻害実験についてさらに検討する。これらの結果より、HBV感染性粒子の出芽におけるERやMVBの関与を考察する。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 5件)
Asian Pacific Journal of Tropical Medicine
巻: 13 ページ: 8-16
10.4103/1995-7645.273568
International Journal of Peptide Research and Therapeutics
巻: None (0nline) ページ: None (Online)
10.1007/s10989-019-09888-2.