研究課題
申請者らが樹立したHLA-DR4トランスジェニックマウス(HLA-DR4tgm)のホモ接合体は、何らかの腸内細菌の存在により誘導される大腸上皮細胞の小胞体ストレスが原因で大腸炎を自然発症する。大腸炎を発症したHLA-DR4tgmの糞便中には、IgAを結合した細菌が多数存在するが、未発症マウスではわずかである。また抗生剤4種混合物を飲水投与することにより、HLA-DR4tgmホモ接合体の大腸炎発症は有意に抑制される。そこで本研究では、大腸炎発症マウスの糞便中のIgA結合細菌中に起因菌が存在するのではないかと考え、当該起因菌を同定することを目的とする。当初はIgA結合細菌を,抗マウスIgA抗体マイクロビーズを用いて分離し、これをプレートにまき、生じるコロニーをMaldi型質量分析計により網羅的に同定し、その中からHLA-DR4tgmに投与して大腸炎を発症させるものを特定するの研究計画であった。この計画とは別に、大腸炎発症を抑制する抗生剤のスペクトルから起因菌候補を絞り、大腸炎発症マウスの糞便中から得られた細菌の中からHLA-DR4tgmに投与して大腸炎を発症させるものを特定する実験も並行しておこなった。以上の結果、後者の実験から細菌Xを特定し、1)抗生剤の投与により同細菌を駆除すると、HLA-DR4tgmホモ接合体の大腸炎発症が抑制されること、2)同細菌を駆除したHLA-DR4tgmホモ接合体に、単離培養した同細菌を投与すると大腸炎を発症することを見出した。したがって、同細菌は本マウスが発症する大腸炎の起因菌の1つであると考えられた。そこで次に、細菌Xによる大腸上皮細胞の小胞体ストレスの誘導機構と、それによる大腸炎の進展過程の解析に着手し、現在これを行っている。
2: おおむね順調に進展している
HLA-DR4tgmホモ接合体に潰瘍性大腸炎様の病態を起こす起因菌の1つとして、細菌X(論文準備中のため、菌名を伏せています)を研究計画半ばで同定できたことは、同疾患の病態を解析に極めて有用であると考える。すなわち同細菌を駆除したマウスに、培養した細菌Xを経口投与すると、当該マウスに自然発症大腸炎と酷似する症状が誘導できることから、自然発症に近い潰瘍性大腸炎の病態を人為的に再現できるモデル系が構築できたことになる。このモデル系を利用することにより、菌体の投与量やその局在と病態の関係、菌体と免疫系の反応過程、特に細菌Xによる大腸上皮細胞の小胞体ストレスの誘導機構と、それによる大腸炎の進展過程の解析に道が開けるものと考える。
これまでの研究から、抗生剤の投与により細菌Xを駆除したHLA-DR4tgmホモ接合体に、培養した同細菌を経口投与すると、当該マウスに自然発症大腸炎と酷似する症状が誘導できた。すなわち本マウスと細菌Xにより、自然発症に近い潰瘍性大腸炎の病態を再現できるモデル系として利用できる。本マウスの自然発症大腸炎は大腸上皮細胞の小胞体ストレスを介することを明らかにしている(Inflamm Bowel Dis 23, 2121-2133, 2017)ので、小胞体ストレスレポーター遺伝子(ERAI-Luc; ER stress-activated indicator-Luciferase)の発現により、本マウスの潰瘍性大腸炎様の病態について、疾患の発生部位の特定および患部の進展状況を経時的に観察できるのではないかと考えた。そこでHLA-DR4tgmとERAI-Luc tgmとの交配により、ERAI-Lucを持つHLA-DR4tgmホモ接合体を樹立し、抗生剤処理後に細菌Xを当該マウスに投与し、経時的にルシフェラーゼによる発光部位を追跡した。その結果、大腸炎を発症しないマウスにおいては、目立った発光部位が認められなかったのに対し、大腸炎発症マウスの中には直腸の発光から始まり、下部大腸に向かって発光部位が広がるものが観察された。今後は観察するマウスの匹数を増やすとともに、病変部の病理組織標本により、ルシフェラーゼの発現部位、細菌Xの所在、免疫細胞の分布等の解析を行う予定である。
本研究計画では当初、大腸炎発症マウスの腸内細菌のうち宿主のIgAを結合するものを単離し、これを共同機器室所有の質量分析計を用いて解析する予定であった。しかし別法により当該大腸炎起因菌の同定に成功したため、マウスの飼育費、細菌単離用の各種ビーズ、培養器、質量分析計の使用料や試料調製費等が見込みよりも少額になった。いっぽう、次年度はルシフェラーゼ発光による生体イメージ解析装置の使用料、ルシフェリンなどの発光基質、マウスの飼育費等が見込まれており、これに充当する予定である。
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Oncoimmunology
巻: 7 ページ: e1415687
10.1080/2162402X.2017.1415687
J Immunother
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