研究課題/領域番号 |
18K08009
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
水上 一弘 大分大学, 医学部, 准教授 (60548139)
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研究分担者 |
杉山 広 国立感染症研究所, 寄生動物部, 主任研究官 (00145822)
村上 和成 大分大学, 医学部, 教授 (00239485)
飛彈野 真也 大分大学, 医学部, 助教 (80516386)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アニサキス症 / アナフィラキシー |
研究実績の概要 |
アニサキス症は、年間約7000例も発症するとされる重要な寄生虫性疾患である。通常アニサキス症とは、幼線虫が胃や腸に穿入し激しい腹痛を引き起こす劇症型アニサキス症を指すが、近年検診目的で上部消化管内視鏡検査を受診し無症状で偶発的に発見される無症候型アニサキス感染者が見つかっている。しかしながら、アニサキス感染が劇症化する分子機構は明らかになっていない。これまでの調査で、劇症型アニサキス症患者の1/3に罹患歴があるものの無症候型感染者には罹患歴がないことから、アニサキスに反復感染することで劇症化する可能性が示唆された。さらに前年度に、生きたアニサキスをマウスに単回あるいは複数回経口感染させたところ、複数回感染させたマウスの血中でIgE抗体価が上昇した結果が得られたことからも、抗原の繰り返し感作による宿主の感受性の亢進が劇症化の原因であることが強く示唆された。そこで、本年度はアニサキスの反復感染により上昇するIgE抗体価がアナフィラキシー反応を誘導するのか検討した。BALB/cマウスにアニサキスを経口感染させ、13週間後にアニサキスホモジネートを耳介に曝露したところ、能動的アナフィラキシー反応が誘導され血管透過性の亢進が観察された。以上より、アニサキス幼虫が繰り返し胃壁に穿入することでIgEが上昇しアナフィラキシー反応が惹起され劇症化する可能性が示唆された。アニサキス感染マウスの胃の虫体穿入部位には、アレルギーやIgEへのクラススイッチに重要なサイトカインであるIL-4や好酸球を誘導するIL-5が上昇していた。また、病理学的な解析を行ったところ、胃の虫体穿入部位に炎症細胞の浸潤が観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に、生きたアニサキスをマウスに複数回経口感染させたところ、マウスの血中でIgE抗体価が上昇した。そこで、本年度はこのIgE抗体価の上昇がアナフィラキシー反応を誘導するのか能動的アナフィラキシー試験を用いて検討した。その結果、アニサキスの反復感染によりアナフィラキシー反応の誘導が観察されたことから、アニサキス幼虫が繰り返し胃壁に穿入することでIgEが上昇しアナフィラキシー反応が惹起され劇症化する可能性が示唆された。さらに、アニサキス感染マウスの胃の虫体穿入部位には、アレルギーやIgEへのクラススイッチに重要なサイトカインであるIL-4や好酸球を誘導するIL-5の上昇が観察され、アニサキス感染が劇症化する分子機構の一端が明らかになったことからおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度では、胃のアニサキスの穿入部位にどのような細胞が浸潤しているのかフローサイトメトリー法を用いて明らかにする。さらに、どのような因子がアニサキス症の劇症化に関係するのか遺伝子発現量解析を行い劇症化に関係する因子を同定する。 (1)胃のアニサキスの穿入部位にどのような細胞が浸潤しているのか明らかにするため、アニサキス感染マウスから胃を摘出し粘膜固有層から細胞を単離して、胃に浸潤した2型自然リンパ球(ILC2)や好酸球、好中球、T細胞、B細胞などの割合や細胞数を、フローサイトメトリー法を用いて解析する。さらに、ILC2やその活性化に関わるIL-7、IL-25、IL-33や、B細胞のIgEへのクラススイッチを誘導するIL-4、好酸球を誘導するIL-5、ムチンの分泌を促進するIL-13などのサイトカイン産生量についてフローサイトメトリー法やELISA法を用いて解析する。 (2)アニサキス穿孔部位における劇症化因子は何か明らかにするため、生きたアニサキスを反復感染させ、マウスの胃の虫体が穿入した組織からRNAを抽出し、マイクロアレイ解析を用いた遺伝子発現量解析を行うことで、宿主側の劇症化に関係する因子を探索する。また、アニサキス側の劇症化因子を探索するためアニサキスのホモジネートをマウスに免疫し、モノクローナル抗体(mAb)を作製する。得られたmAbを用いて、アニサキス虫体の免疫組織化学的解析を行い、抗体がアニサキスのどの組織と反応するのか解析する。さらに、得られたmAbでアニサキス抗原を免疫沈降し、それをLC-MS、TOF-MS、CE-MS等を用いてオミクス解析することで抗原を同定する。最終的には、その抗原が劇症化因子であることをマウスの免疫実験で検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はマウスを用いて、能動的アナフィラキシー試験を行い、アニサキス幼虫が繰り返し穿入することで、IgEが上昇し、アナフィラキシー反応が惹起され、劇症化する可能性が示唆され、またアニサキス感染マウスの胃の虫体穿入部位に対して、IL-4やIL-5を観察することができ、アニサキス感染が劇症化する分子機構の一端が明らかになり、概ね順調に進んでいるが、追加実験などで次の検証が次年度に持ち越される運びとなった。 令和2年度では、胃のアニサキスの穿入部位にどのような細胞が浸潤しているのかフローサイトメトリー法を用いて明らかにする。さらに、どのような因子がアニサキス症の劇症化に関係するのか遺伝子発現量解析を行い劇症化に関係する因子を同定する。
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