研究課題/領域番号 |
18K08012
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
井上 貴子 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 講師 (00431700)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 腸内細菌叢 / C型肝炎 / SVR後発癌 |
研究実績の概要 |
C型肝炎ウイルス(HCV)は有効な直接作用型抗ウイルス剤(DAAs)の登場により、ほぼ100%排除可能となった。その一方で、HCV排除、すなわちSVR達成後も肝線維化進展例(F3-4)ではSVR達成後早期から肝発癌の可能性がある。一方、肝線維化が軽度(F0-2)の場合もハイリスク群(高齢・男性)の症例では、SVR達成3年目以降に肝発癌のリスクが増加する。今後慢性C型肝炎(CHC)に対する方策は、既知(肝線維化進展・高齢・男性・遺伝子多型)および未知のSVR後肝発癌ハイリスク群の囲い込みが重要となる。 先行研究として、我々はC型慢性肝炎の病態進展度による腸内細菌叢の特徴を明らかにした。CHC患者166名(無症候性キャリア18名、慢性肝炎84名、肝硬変40名、肝がん24名)と健常者23名の腸内細菌叢をメタ16S解析で比較し、病態別に解析した結果を世界で初めて報告した(Inoue T and Tanaka Y, et al. Clin Infect Dis. 2018; 67: 869-877)。その成果を基に、今回我々はHCV排除前後の腸内細菌叢を同一患者で比較し、腸肝循環におけるHCV排除の意義の解明を試みた。SVR達成前後で糞便の提供を受けたCHC患者の腸内細菌叢を次世代シーケンサーで同定した。その結果、HCV排除前後で腸内細菌叢が変化するグループがあることを発見した。 今後、CHCの腸内細菌叢の特徴を利用して、SVR後発癌のハイリスク群を囲い込み、効率的な診断・治療を目指す。また発癌・線維化を予測可能にするバイオマーカーの開発・臨床応用によって、的確に予後予測を行なうシステムを構築する。本研究の成果から個別の病態進行(発癌・線維化)及びその改善予測が可能となり、CHCにおける包括的診断・治療の構築が実現できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目標は、CHC患者における腸内細菌叢の変化を利用して、SVR後発癌のハイリスク群を明確にし、効率的な診断・治療を目指すことである。また予後予測を的確に行なうために、発癌・線維化のハイリスク群を選別可能にするバイオマーカーの開発・臨床応用を当面のゴールと定める。これらの研究成果から個別の病態進行(発癌・線維化進展)の程度及びその改善予測が可能となり、CHC患者における包括的診断・治療を具体化することができる。 研究対象は当院及び連携研究機関に通院中のCHC SVR達成症例で、糞便提供に同意した患者である。SVR達成前後のポイントで糞便の提供を受けた。SVR達成前後の腸内細菌叢を同一患者で比較し、細菌叢を構成する菌種数の変化、特定菌種の増減から腸肝循環におけるHCV排除の意義を解明しようと試みた。 CHC患者から提供を受けた糞便から細菌ゲノムを抽出した。腸内細菌叢の解析は16S ribosomal RNAを用いて行なった。交絡因子を考慮・排除して解析を行なった結果、HCV排除前後で腸内細菌叢の構成が変化するグループがあることを発見した。 現在HCV排除前後で腸内細菌叢の構成が変化する症例の特徴を詳細に解析している。この結果から、腸肝循環におけるHCV排除の意義を解明し、SVR後発癌や肝線維化進行に関係する腸内細菌叢由来物質を同定・精製する。さらには糞便中の各種代謝産物の定量分析を行なう。 これまでの進捗から今後の研究方針は明確となり、CHCにおける支持的治療の意義と必要性、腸内環境・微生物の生育条件や相互作用までも考慮した上での生態系としてのHCV排除の価値を評価する準備は整い、今後臨床応用が十分可能な症例ごとの包括的診断・治療の構築に向けて前進した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、CHCにおけるSVR達成前後の腸内細菌叢を経時的に同一患者で比較し、特定菌種および類縁にある菌属の増減、腸内環境を形成する微生物環境としての細菌叢の構成から、HCV排除の意義を解明する。症例を前向きに観察し、SVR達成後の予後、特に肝発癌・線維化進展と腸内細菌叢との関連を明らかにする。 特にHCV排除後に病態が悪化した症例に着目する。臨床的エンドポイントとして肝線維化進行度・発癌・生存率を設定する。同時に血液・生化学検査データ、線維化マーカー値、腫瘍マーカー値、画像診断結果なども解析対象に含める。さらに動物モデルも含めた、確実な病態進行予測モデルを完成させる。 今後、CHCの腸内細菌叢の特徴を利用して、SVR後発癌のハイリスク群を囲い込み、症例ごとの効率的で有効な診断・治療を目指す。また肝発癌・線維化進展を予測可能にする新規バイオマーカーの開発・臨床応用によって、的確に予後予測を行なうシステムを構築する。 本研究の成果から個別の病態進行(発癌・線維化)及びその改善予測が可能となり、CHCにおける包括的診断・治療の構築が実現できる。解析対象とする症例をグルーピングし、より詳細で明確なカテゴリー分類ができるよう、症例の収集も継続して行なう。
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次年度使用額が生じた理由 |
省コストにより、研究費を節約することができた。 研究の進捗は概ね順調であり、今年度の試薬購入・成果発表に使用する予定である。
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