研究課題
非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は、肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症を背景とした、肝臓における生活習慣病の表現型である。NASHは、肝硬変、ひいては肝細胞癌に進行する疾患であり、NASH患者が急増する我が国において、NASH病態発症・進展機序の解明/NASHの治療法・予防法の確立は、早急に取り組むべき課題と言える。近年、全身の代謝機能維持における「肝脳相関」の重要性が示されている。肝臓は、全身のエネルギー状態のセンサーとして機能し、肝臓のエネルギー蓄積情報は迷走神経肝臓枝を通じて脳に伝播する。そして、脳からエネルギー消費指令が、末梢組織に伝達され、末梢組織の代謝が亢進される。しかし、NASH病態発症・進展機序における「肝脳相関」の役割は未だに解明されていない。加えて、肝臓構成細胞が肝臓神経活動にどのように関わっているのか不明な点が多い。上記の疑問点を解決するために、外科的手法もしくは遺伝子改変技術を用いてマウス迷走神経肝臓枝を遮断し、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)病態発症・進展における「肝脳相関」の役割を明らかとすることを目的として本研究課題に取り組む。当該年度において、明らかとなった研究成果は以下の通りである。正常なマウス肝臓内に分布する神経細胞の周辺に肝星細胞が多く存在することを確認した。肝臓内の神経細胞数は、各種マウス肝臓線維化病態進展に伴い、減少した。肝臓において神経栄養因子の1つであるグリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)の主な発現担当細胞は、肝星細胞であった。肝臓線維化病態進展に伴う、肝星細胞の形質変化は、GDNFを減少させた。これらの結果より、肝星細胞が肝臓内に分布する神経細胞の維持に重要な役割を担うことが考えられた。
2: おおむね順調に進展している
当該年度において、胆汁酸うっ滞もしくは四塩化炭素投与によるマウス慢性肝臓線維化モデルおよび、コレステロールが添加された高脂肪食摂取によるマウス非アルコール性脂肪性肝炎を作成した。これら病態モデルを用いて、解析を行った。いずれの病態モデルにおいても、肝臓線維化病態モデルの発症・進展に伴い、肝臓内神経細胞数の減少・GDNFの発現低下を再現性良く確認できた。加えて、現在、肝星細胞特異的GDNF欠損マウスを作成しており、次年度以降の研究準備も進んでいる。これらの状況を踏まえると、本事業はおおむね順調に進展していると考えられる。
次年度以降は、以下の検討を実施する。項目1) マウス迷走神経肝臓枝を外科的に遮断する方法を確立している。C57BL/6マウス(雄: 6週齢)に、高コレステロール/高脂肪食(NASH食)または通常食を20週間摂取させる。NASH食を24週間摂餌したマウスの迷走神経肝臓枝を外科的に遮断し、コントロール群は偽手術を行う。手術1週後に、GTTアッセイとITTアッセイを行い、インスリン抵抗性を評価する。FITC-dextranを用いて腸管透過性を評価する。迷走神経肝臓枝遮断2週後に解剖を行う。項目2) C57BL/6マウスに、NASH食を24週間摂取させる。NASHモデルマウスに、肝星細胞特異的Gdnf過剰発現レンチウイルスベクターもしくはControlベクターのいずれかを投与する。レンチウイルスベクター投与後6週までの、マウス体重・摂餌量・飲水量を測定する。ベクター投与2-4週後に、GTTとITTアッセイを行い、インスリン抵抗性を評価する。FITC-dextranを用いて腸管透過性を評価する。
本研究課題の遂行するために必要なマウス・実験試薬・器具は、課題開始前より所属機関で準備していた。本年度において、これら準備品を使用・消費しているため、次年度は、実験に必要なマウスの購入・維持・ジェノタイピング試薬、肝臓構成細胞の分離・解析に必要な試薬を購入する予定である。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件)
Nat Microbiol.
巻: 4 ページ: 492-503
10.1038/s41564-018-0333-1.
Cell Mol Gastroenterol Hepatol.
巻: 7 ページ: 135-156
10.1016/j.jcmgh.2018.09.010.
BMC Cancer.
巻: 3 ページ: -
doi: 10.1186/s12885-018-4588-y.
JCI Insight.
10.1172/jci.insight.91980.
J Clin Invest.
巻: 128 ページ: 1581-1596
10.1172/JCI92863.