研究課題
ウルソデオキシコール酸(UDCA)は肝保護作用を有し、一定の有効率と少ない副作用によって、消化器系の臨床には必須の薬剤である。しかし、原発性胆汁性胆管炎(PBC)での有効率は約70%に留まり、自己免疫性肝炎(AIH)、原発性硬化性胆管炎(PSC)、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に対する効果は不十分である。我々はUDCAの肝保護作用を高めることが、UDCA不応性病態改善の有効なツールになると考え、UDCAより肝保護作用が強い胆汁酸の探索を目的として研究を行っている。本研究の初年度である当該年度は、様々な胆汁酸のHPLCによる疎水性比較を行い、UDCA以上の肝保護作用を有する可能性があり、しかも入手可能な胆汁酸のスクリーニングを行った。また、別の研究課題の副産物として産生されたケノデオキシコール酸(CDCA)6β-水酸化酵素のノックアウトマウスが非常に良い肝障害モデルとして使えることが明らかになり、このマウスの維持繁殖に関する研究を行った。このノックアウトマウスでは通常のマウスに多く存在するミュリコール酸(MCA)を合成できず、通常のマウスにはほとんど存在しないCDCAが大量に存在する。恐らくそのCDCAの疎水性が原因と思われる強い肝障害が出現し、離乳後の死亡率が非常に高く、うまく成長できても繁殖能力が極めて低かった。しかし、このマウスに離乳時からUDCAを投与することによって、肝障害も繁殖能力も著明に改善した。UDCA中止時期を調節することにより、このマウスに好きな時に肝障害を出現させ、モデルとして使用することができるようになった。
2: おおむね順調に進展している
胆汁酸のHPLCによる疎水性比較によって、ウルソデオキシコール酸(UDCA)よりも強い肝保護作用を持つ可能性のある胆汁酸誘導体をスクリーニングできた。また、当初四塩化炭素投与による慢性肝障害モデル、アセトアミノフェン投与による急性肝障害モデル、リトコール酸投与による胆汁うっ滞モデルなどを作製することを考えていたが、これらの薬物を投与しなくても肝障害を自然発症するマウスモデルを予定外に確立することができた。
昨年度までにスクリーニングした、ウルソデオキシコール酸(UDCA)よりも強い肝保護作用を持つ可能性のある胆汁酸誘導体の合成を行い、赤血球溶血反応、細胞傷害反応等の基礎的な検討を行う。また、前記の肝障害を自然発症するモデルマウスにおいて、肝障害が出現するメカニズムを明らかにする。
既に年度末に「次年度使用額」以上の金額を使用している。会計手続き上、年度末の請求書の処理が次年度になっており、研究費は予定通り継続的に使用している。
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Inflamm Bowel Dis
巻: 24 ページ: 1035-1044
10.1093/ibd/izy022.