ウルソデオキシコール酸(UDCA)は肝保護作用を有する親水性の胆汁酸であり、一定の有効率と少ない副作用によって、消化器系の臨床には必須の薬剤である。しかし、原発性胆汁性胆管炎(PBC)での有効率は約70%に留まり、自己免疫性肝炎(AIH)、原発性硬化性胆管炎(PSC)、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に対する効果は不十分である。我々は胆汁酸による肝保護作用を高めることができれば、UDCA不応性病態の改善に有効なツールになると考え、UDCAより肝保護作用が強い胆汁酸の探索を目的として研究を行った。 基礎実験において、超親水性+安定性という点から、齧歯類が有するミュリコール酸(MCA)が最も有力な候補胆汁酸と考えられた。MCAとUDCAの効果を比較するために、MCAを合成できずにケノデオキシコール酸(CDCA)が蓄積して肝障害が引き起こされるCyp2a12/Cyp2c70ダブルノックアウトマウスを用いて、UDCA投与によって肝障害がどこまで改善するかを検討した。その結果、UDCA投与によってALTの改善傾向は認められたが、胆汁中UDCAの比率が60%以上になっても病理組織学的所見は完全に正常化せず炎症が持続し、肝の脂肪化も認められた。UDCA投与は消化管からのコレステロール吸収は抑制するが中性脂肪の消化吸収を促進するためと考えられた。以上の様に少なくともマウスにおいて肝障害の治療という点からは、UDCAよりもMCAの方が明らかに優れていると考えられた。 一方、同モデルマウスにおいて、食事組成の変化により腸内細菌叢を変化させて、非抱合型のCDCAを減少させると、肝障害の著明な改善が認められた。必ずしも新規の超親水性胆汁酸を投与しなくても、小腸での胆汁酸脱抱合を抑制し、肝に戻る胆汁酸の抱合率を上昇させることによって肝障害を改善させ得ることが明らかになった。
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